A calling(天職)~ニュージーランド編~

 

第6話 強烈な朝食!

 

 

昨日、クライストチャーチから車で約6時間掛けて、ニュージーランド南東最北端の町に近い、ジェニーの牧場に到着した。

 

到着した日は、牧場内の案内で4ヘクタール(1ヘクタール=100m×100m)の敷地内を歩き、仕事は翌日から始まることになった。

 

朝7時に起き、前日に借りた黒のオーバーオールに着替えて、ジェニーの待つ母屋に向かった。

 

自分が寝ている場所は、牧場のど真ん中に建設中の小屋で、まだ電気・水道が引かれていないため、トイレや食事の時は約3分歩いて母屋まで行かなくてはならない。

 

実際は、家畜を分ける為のゲートを幾つか開け閉めしながら行くので、5分以上掛かる。

 

母屋までの途中、英和辞典を持ってくるのを忘れたことに気付き、引き返した。

 

仕事の大体の内容は昨日教えてくれたが、細かい説明をされて理解出来ないと困るので、肌身離さず持ち歩くようにしようと決めていた。

 

朝ごはんは自分で用意することになっていたが、あまり勝手な事は出来ないと思い、ジェニーが食べている物と同じ物を食べることにした。

 

食パン2枚にチョコレートジャムを塗り、紅茶にミルクを入れていた。

 

ここは、郷に入っては郷に従え、英語では「When in Rome, do as the Romans do」

 

つまり、ローマでは、ローマの人たちがする事をすればよい、と言うことなので、自分も食パン2枚にチョコレートジャムを塗って、紅茶の変わりにコーヒーで朝食とした。

 

ジェニーが、ミルクは冷蔵庫の中の白いポットの中にあると教えてくれたので、少しだけコーヒーに入れてカフェオレにした。

 

日本では、パンにはピーナッツバターを塗って食べるのが好きだったが、贅沢は言っていられない。チョコレートジャムをパンに多めに塗って。ダイニングテーブルに座った。

 

そしてパンを1口食べた瞬間、

「おえっ」

嗚咽しながら吐き出してしまった。

 

「What is this?(これは何?)」

と、聞くと

「It’s Vegemite! Yum-yum.(それはベジマイトよ、おいちーおいちー)」

 

ジェニーが不思議そうに、こちらを見ているので、美味しくないとは言えなかった。

 

一度カフェオレで口の中をリセットしようと口にした瞬間、さらなる衝撃が脳天を突き抜けた。

 

ミルクを少ししか入れてないはずなのに、それはもはやコーヒーの味ではなく、獣の味になっていた。

 

何とか、鼻をつまみ、獣の汁を胃袋に落としてから、ジェニーに、これは何のミルクか聞いた。

 

 「It’s a gout .(やぎだよ)yammy?(おいしいでしょ?)」

 

美味しいわけがない。

 

日本人は、相手を思いやる心や、気を遣う事にかけては、どの民族よりも優れており、本音を言えない人種だと、ある本で読んだことがあるが、ここは、しっかりと本音を伝えた。

 

「The smell is a little bit strong, but not too bad. (ちょっと匂いが強いけど、まずくはないね)」

 

きっとこれも、本音ではないんだと思う。

 

その後、ベジマイトについてジェニーに詳しく聞いてみると、ビールを作る時に出る酵母の搾りかすを発行させて味付けした物だと教えてくれた。

 

色は黒に近いこげ茶色でチョコレートに似ているが、味は腐りかけたイカの塩辛みたいで、チョコレートだと思って食べた時の衝撃の大きさは計り知れない。

 

ニュージーランド人はこのベジマイトが好きな人が多く、ジェニーの家族は全員大好きで、次女のサニーでさえ美味しそうに食べている。

 

きっと、日本人にとって納豆のような物なのかと感じた。

 

日本では、食パン2枚くらい3分も掛からずに食べていたのだが、今日は20分以上かけ、何とか自分で用意した朝食を食べ終えた。

 

朝のニュースで、天気予報が終わるのがちょうど7時55分、それから、仕事開始となる。

 

食後の気持ち悪さが少し残ったまま、ジェニーに付いて牧場へと向かった。

 

第7話に続く