ラウンジを出てエレベーターを待っていると遼一さんがため息をついた。


「どうしてあいつらはお前のことになると、こうも必死なのかねぇ」


「ふふ。私じゃなくて、みんな遼一さんが好きだからですよ・・・ん?あれ?携帯の着信がいっぱい」


ふと携帯を見ると、着信通知が10件もあった。


「お父さんからだ。こんなにたくさん・・・どうしよう、何かあったのかなぁ」


「オレの方にも着信がある。すぐにかけ直してみなさい」


部屋につくとすぐに、日本にいるお父さんに電話をかけた。


「えぇ!23日??郵便なんて届いてないよ。しかも、その日は私、出張で家にいないんだよ」


「おい、◯◯、今日の郵便でおとうさ様からのハガキがきてるぞ・・・12月23日、NYに行きます・・・」


電話の横で、今日届いたばかりのお父さんのハガキを読み上げる遼一さん。


お父さんの要件は12月23日、出張でNYに行くことになったから案内してほしいということだった。


それをハガキで知らせたつもりが、どうやら日本とNYの距離を考えずに出していたのだという。


私はその日、どうしても外せない出張が入っていたので、結局遼一さんにNY案内をお願いすることにした。


お父さんとの電話を切ったあと、改めて遼一さんに謝ることに。


「遼一さん、父が本当にすいません。しかも私もいないし・・・」


「気にしなくていい。オレも締切り明けだから。オレの親父といるよりはずっと会話も弾むだろう。何より、お前がいると聞けない、あんなことやこんなことを聞けるいいチャンスだ」


「…遼一さん、何をたくらんでるんですか?」


「さぁねぇ」


遼一さんはにやりと笑う。


「そんなことより、今日は他にもお前あてに手紙ハガキがきてるぞ。これは◯◯が昔お世話になった恩師からのものじゃないか」


「嬉しい!!結婚のお祝いメッセージです!遼一さんにもよろしくって書いてますよ。」


「わざわざNYまで送って下さるってありがたいよな。ちゃんと大切にとっておかないとな」


遼一さんの言葉を聞いた私は、戸棚から、一つの箱を取り出した。


「これは?」


「この箱には私が今までもらった大切なお手紙が全てしまってあるんですよ。」


「たくさんあるんだな」


「子供の頃からのものなので」


そう言いながら、遼一さんに箱の中の手紙を見せる。


「ちなみにこの2通は遼一さんからもったものです」


「お前ねぇ、結婚式に渡した手紙ならまだしも、こんな走り書き捨てなさいよ」


「捨てられるわけないじゃないですか。あの授賞式の夜、私が初めて遼一さんからもらった愛のメッセージですよ。私の宝物ですから」


「お前ってやつは・・・」


そう言いながら照れている遼一さんはどこかとても嬉しそう。


そのとき、遼一さんが箱の中の一枚の手紙を手にして一瞬止まったように見えた。


「ん?」


「どうかしました?」


「これは・・・いや、なんでもない。こうやって手紙の数々を見てると、◯◯は本当に色々な人に愛されて大きくなったんだと思ってねぇ」


「本当にありがたいなぁって思います。遼一さんをはじめ、今まで出会ったすべての人たちのおかげで私は今ここにいますから」


私がそう言うと、遼一さんがふわりと抱きしめてくれた。


「それって◯◯サンの人徳ってやつだな。さぁ、明日は早いんだろ、先に風呂に入ってきなさいよ。オレも仕事のメール1件送ったらすぐに入るから」


そして、おでこにチュッとキスをくれる。


「すいません、じゃあ先にお風呂いただきますね」


そう言ったものの、遼一さんの体からふわりとにおうタバコの香りが心地よくて私はしばらく遼一さんの腕の中にいた。





その⑶に続く。


次で完結です。