ラウンジから部屋に戻る途中、遼一さんがつぶやいた。


「まさか、こんな話だとは思ってなかったわ」


「私もです。すごく嬉しいけど何か申し訳なくて…」


「いいんじゃないの、お祭り騒ぎが好きなやつらだし、何よりみんなお前のことが好きなんだよ」


「分かってませんねー。みんな遼一さんが大切だからですよ」


「大切ねぇ…それにしてもお前、よく食ってたな」


「だって、本当においしかったんですもん!やっぱりお節とチョコレートは自分で作るよりプロが作る方がおいしいですからね」


「・・・」


「遼一さん?」


「分かってないのは、ともさんのほうだねぇ」


「えっ?」


「お前、朝オレに聞いただろ。出汁が薄かったかなぁって」


「はい。皐月さんのところで食べて思ったんですが、うちのはやっぱり薄かったですね」


「そうじゃなくて…」


「オレね、付き合いたての頃、初めてお前の料理食ったとき、旨かったけど、薄く感じたの」


「えっ!そうだったんですか。すいません!もっと早く言ってくれれば良かったのに」


「いや、旨かったのはホントだから。それにオレ、外食ばっかりだっただろ。だから余計にそう思ったんだと思う。それで、ずっとお前の料理を食べてるうちに、オレの口のベースはともの料理になったってわけだ」


「だから、どんなすごいシェフが作ろうが、どんな高級食材が入っていようが、オレが一番うまいと思うのは、お前のお節だけだから」


「遼一さん・・・」


朝、言いかけてやめた言葉がこんな言葉だったなんて・・・


新年早々こんなにも嬉しいことが重なっていいのかと思うぐらい幸せで、思わず遼一さんに抱き付いた。


「家まで待てないって?ともさんも大胆になったねぇ」


「大胆でも何でもいいです!とにかく私は遼一さんが大好きなんです!」


自分のありったけの想いを伝えると、優しく微笑んでくれる遼一さん。


出会ったときの遼一さんとは比べ物にならないほど柔らかい笑顔。


その笑顔を遼一さんの奥さんとしてすぐ隣で見れることが嬉しくて、私は遼一さんにキスをしたのだった。







いよいよ皐月さんたちが準備してくれたパーティー当日。


「とも、ちょっと行きたいところがあるから早めに家を出ていいか」


「いいですよ。でもどこに行くんですか?」


「招待状をまだ届けてない人がいるんで直接持って行くんだよ」


「えー!誰ですか?そんな急に言って大丈夫なんですか?」


「いいからついてきなさいよ」


それっきり遼一さんは何も教えてくれず車を発車させた。


そして、車が到着した場所を見て息を飲んだ。


「遼一さん、ここは・・・」


「お前が一番来てほしかった方なんだろ。ならちゃんと招待状を届けないと」


そこは、私が大好きだった先生のお墓だった。


呆然と立ち尽くす私をよそに、すたすたと歩いていく遼一さん。


「待ってください!」




そして先生のお墓の前で2人で手を合わす。


背筋をピンと伸ばして手を合わせる遼一さんを見ていると涙が溢れそうになった。


「花嫁さんが泣いてどうする。目を腫らして行ったら、トレヴァーに叱られるぞ」


手を合わせ終えた遼一さんが、目を真っ赤にした私を見て笑う。


「遼一さん、本当にありがとうございます。先生には、パーティーが終わったら次の日に報告に来ようと思ってたんです」


「だって、今のお前があるのは先生のおかげなんだろ?ならちゃんとパーティーの前に、オレもちゃんとお礼と報告をしなきゃいけないと思ってな。確か、以前、ここのお寺だって言ってたのを思い出して。サンドリオンからも近いしちょうど良かったわ」


「遼一さん…」


「さぁ、報告も終わったことだし、会場へ急ぎますか」


そう言って私の手をとって歩き出した。


あぁ、私はなんて素敵な人と結婚したんだろう、そう思うと胸がいっぱいになったのだった。