退園で施設内のザワザワが落ち着こうかとしていた頃でした。


先生から“一時帰省”の提案がありました。

2泊3日だけど、その期間“平田”は仕事で家をあけていないからと、母も帰省を了承してくれたと赤名先生。


春休みはこうやって一時帰省する子は少なくはありません。

私もその1人になるなんて思ってなかったので、遅れて届いたクリスマスプレゼントだと思いました。


この話が出た瞬間

“絶対ここには戻らない”

そう決めた私。


母が迎えに来てくれ、帰省中の約束ごとなどを母と一緒に聞きました。


“1人で外出しないこと”


これが約束ごとの1つでした。


守るもんか!と思いながらニコニコして頷く私。


この頃「地域振興券」という金券が全国で配られ、施設にいた私も対象だったようで、帰省のタイミングで貰えたので、帰り道人生初めてのメイク用品を買ったのを覚えています。

施設の子に何を揃えたらいいか事前に聞いていた、ビューラー、クリアマスカラ、アイシャドー、色付きリップを購入。


家には祖母と妹と弟。

その頃の母と祖母の関係はよくわかりませんでしたが、みんなで食卓を囲みました。


幸せを感じる間もなく、私は母に

「明日1人で買い物出てくる」

とだけ伝えました。

母は何か言いたげでしたが、駄目だとは言いませんでした。


雑誌を見ながらメイクの練習をし、母が寝たことを確認してから、私は“源ちゃん”に電話をかけました。


やっぱり忘れられなくて、絶対源ちゃんに会って、源ちゃんに助けてもらおうと考えていました。


源ちゃんは私からの電話に驚いた様子だったけど、明日会ってくれることになりました。


きっと会って話したら

「大変だったね、これからはずっと一緒にいよう」


抱きしめてそう言ってくれるんじゃないかって。