『あの夏の正解』は何だったんだろう
プロ野球は夏休み中?ですが、
高校野球の地方予選はたけなわ。
そんな今、ショッキングなニュースが。
星稜高校が石川県大会準々決勝を
辞退…だって。
部内にコロナ感染者が出たとのこと。
他にもそういった学校はあるようですし、
このご時世、仕方のないことなのでしょうが
このタイミングで…とショッキング…というのも
ちょうど先週、この本を読んでいまして。
甲子園が中止になった去年の夏、
星稜高校と済美高校の野球部を取材して
書かれたノンフィクションです。
昨日、本屋大賞ノンフィクション本大賞への
ノミネートも決まりニュースになっていました。
これがまた素晴らしい本で…
自身もかつての高校球児であり、
高校野球を題材にした小説も書かれている
小説家の早見和真さんが、
甲子園中止が決まる時から、夏の終わりに
各校の3年生が引退するまでを、
両校の指導者、選手にインタビューを重ね、
丁寧に取材して書いてらっしゃいます。
私が想像してた以上に選手たちには
一筋縄にはいかない複雑な心情があり、
本当にどう考えるのが正解だったんだろう
…と題名の『あの夏の正解』について
深く考えさせられました。
各校の置かれた立場、
レギュラーか否かという各選手の立場、
卒業後も野球を続けるか否かによる違い、
どういう考えで野球をやってきたかによる違い、
皆、それぞれに考えや気持ちがあり、
高校球児としての建前、本音、葛藤…
どの選手の気持ちもわかる、
どの言葉も正解…と思ってしまいました。
帯の書評にはこんな言葉が寄せられいます。
私はノンスタ石田さんの「全員に共感できた」
という言葉がぴったりきました。
みんなが前を向こうと正解を探してたけど、
何が正解なのか…でもどれも正解のような。
この中で星稜高校の主な登場人物として、
主将の内山壮真くんが取材されていますが、
私がこの本を読んでたのは
ちょうどフレッシュオールスターの翌日で、
え?昨日MVP獲ってたヤクルト内山くんか!
と、そのタイミングにびっくりしました!
そうです、HR打ってMVPをとった
ヤクルト内山くんです。
いやー…この本の中の内山くん、
本当に高校生?という深い思考と言葉で
さすが名門校の主将…と感心しました。
高卒でドラフトにかかる子というのは、
野球の能力だけでなく、人間的に
突出してるモノなのですね…と。
そんな本に感動というか感心してた矢先の
その星稜高校のコロナの悲劇。
去年の3年を見てきた2年が3年になって
この夏どう戦うのか…特に注目しよう!と
思ってたのに。
星稜高校は2019の決勝で履正社に敗れ、
2020は甲子園が中止になり、
救済措置として企画された甲子園交流戦で
その履正社との対戦になったものの
大敗を喫し…今年にかける意気込みたるや、
という状況での無念の辞退…
どこまでこの子達に試練を与えるのだろう
と泣けてきました。
前を向けとか、試合以上に人として成長とか
いくらでも言いようはあるでしょうが、
そんなどんな言葉も虚しく聞こえます。
本当にどう考え、どう表現すべきなのか
ますます考えさせられてしまいます。
甲子園ほどの大きな目標ではなくとも、
私が日々接している中高生たちも
去年今年、同じように部活や行事を奪われ、
その虚しさ、悔しさ、やるせなさを思うと
かける言葉が見当たらないのです。
みんな、仕方ないとは言ってるけど、
この本の中の子たちのように本当は色々と
複雑な葛藤があるんだろうな、と思うと
安易な言葉はかけたくないしかけられない。
大人としてどうしてあげたらいいのか、と。
本当に素晴らしいノンフィクションです。
プロ野球がお休みで時間のある今、
ぜひぜひ読むべき本だと思います。
全野球ファンにお薦め。
そしてこれを読んだことをふまえて見る
今年の甲子園、自分はどう感じるのか
というのも個人的に興味があります。
作中には星稜、済美の練習風景などが
描写されていますし、作者の早見さんは
桐蔭学園のご出身なので、
その野球部の話も出てきます。
Eファンなら、島内くんや安楽くん、
福井さん、茂木くん、大地くんらの
高校野球時代を想像できて、
そんな楽しみもありますよ。
文中には安楽くんの名前もちょこっと
出てきていました!
それから、早見さんが高校野球を題材に
書かれた『ひゃくはち』という小説も
お薦めです。
高校球児の等身大の描写が生き生きしてて、
野球の場面の緊迫感、部としての一体感など
さすが高校野球経験者ならではです。
私は野球を題材にした小説が大好物ですが
その中でも1.2を争う秀作だと思います。
『ひゃくはち』…こちらも是非!!