最終章 あの日見た虹


【赤色、カレン】

 二冊目の写真集の撮影は沖縄だった。

 初日はピーカン。ビーチや、中学校以来のバスケットボールの屋外コートで撮影した。

 二日目はゲリラ豪雨。びしょ濡れになって、雨宿りしている軒下で

(ああ、今日は中止かなあ)

と残念そうに空を眺めていると、カメラマンさんが

「いいよ、その表情。よし!このまま撮影しよう!」って。

 水着の上に着た白いTシャツが透けてしまうほどずぶ濡れになったけれど、後で見せてもらったら、寂しげな表情が撮れていて良かった。結局スタッフ二人が風邪をひいてしまって、翌日は中止になったけれど。

 オフになったから、みんなでタコライス発祥のお店に行ったり、トロピカルカクテルで乾杯したり、美ら海水族館に行ったりした。夜はユリポンおすすめの沖縄料理店に行った。

 三日目は屋内。水着でお風呂に入ったり、ベッドでゴロゴロしたりして撮影した。夕食に

「今晩はイタリアンです」って言われてタクシーに乗ったら、なんとマップにお気に入りのピンを刺してあったお店だった。

 そんな夢のような撮影も終わり、写真集の売れ行きも好調で、重版になったみたい。

 ニジドリにも変化があった。

 まずカフェは人が溢れてしまってやむなく閉店した。撮影会やオフ会、Zoomのツーショットトークなんかも残念ながらなくなった。

 定期ライブ毎週から毎月になって、今は不定期になった。

 ライブのチケットが入手しづらくなって、ドリーマーから「なんとかならないか」という声が多数あがったので、ファンクラブ『ドリーマーズ』が作られて、チケットのファンクラブ先行優先販売が行われるようになった。会員はQRコードでメンバーのプライベート動画が観られたり、毎月の会報でぶっちゃけトークを読めたりする。

 レッスンも新曲のフリ入れと、ライブのリハーサルだけになった。

 ライブの物販も変わった。これまでのチェキ券方式ではなくなって、ニジドリ専用キングブレード、背中に『虹夢』と荒い毛筆体で書かれたTシャツ(メンバーカラーで七色)、トートバッグ。アクリルキーホルダー、生写真、CDなどを購入すると、3000円毎に一枚、ニジドリ券がもらえて、ニジドリ券一枚でツーショットサインチェキ+30秒トーク。ニジドリ券には通し番号がついていて、枚数限定の上、その日にしか使えないので、こういうことがしばしば起きるようになった。

『マピメロ@カレニスト

本日の恵比寿ソリッドルームのニジドリ券が枯れてしまって入手出来ませんでした。当方、地方住みでめったにライブに来られません。ニジトリ券を余分に持っている方、どなたか譲ってくださいませんか?』

  ライブのチケットは定価より高く転売してはいけない、って法律があるけど、ニジドリ券はチケットじゃないので、価格は自由交渉。でもたぶんカレニストなら。あ、リプがついた。

『栗ごはん@カレニスト

ニジドリ券4枚持っていますので、1枚お譲りします。入口の自販機横にいる金髪赤虹夢Tの男です。声をかけてください。価格は3000円でOKです』

 良かった。さすがカレニスト。

 一方である日突然他のメンバー推しから私推し、私推しから他のメンバー推しに変えてしまう人が目につくようになってきた。

 カカシが

「オタクには暗黙のルールがある。推し増しはOK。他グループへの推し変もまあ仕方ない。絶対やってはいけないのがグループ内推し変。これをやったら切腹や出禁もの。新規にはそれをわかってないやつらがいる。『新規笑うな、前来た道だ』っていうけど、やつらはオタク、いや人間として失格だ」

って言っていた。

 人間だから気持ちが変わってしまうことだってあるとは思う。

 でも私はカカシの言うことの方が正しいと思う。

 それは二人の女の子を傷つけてしまうから。

 今日実際にユキ推しから私推しに変えた人がいた。いつも黄色を振っていたのに、今日突然赤を振っていた。『オンリーミー』初披露のライブの後、なんとなく気まずかったし、打ち上げで飲み過ぎてしまった。ユキも同じだったんだと思う。かなり飲んでたみたいだし。

 なんとなく自己嫌悪の気持ちで電車に揺られていると、スマホが鳴った。高梨社長からのLINE。

『カレン、エレキ弾けるか?』

 んー。アコギよりネックが細いから、練習すればいけるかな。

『練習すればできると思います』

『りょ』

 何だろう?