第一章『白雪姫に変身しちゃえ』


  【????】

  昔……といってもちょっとだけ昔、あるところに一人の普通の女の子がいました。女の子には小さな頃からずっとアイドルになりたいという夢がありました。

「それでそれで?」

  このお話はその女の子がやがて夢を叶えて、お城でお姫様になるお話なの。でははじまりはじまり。


  【広瀬尚人】

  アパートの隣の有希は小さな頃からいつも泣いてばかりいました。

  色が透き通るように白くて、すごく可愛かったんです。だから白雪姫って呼ばれていました。

  ほら、男子って気になる子に意地悪するじゃないですか。みんな「白ゆき姫毒リンゴ食えよ」とか「血管浮き出ててキモッ」とか言われて。

  僕も有希が好きでしたが、そんな有希に何もしてあげられなくて。守ってあげるべきだったのに、勇気が出なくて。何か言うと僕もいじめられるんじゃないかって。

  おばさんが亡くなった時だってそうです。泣いている有希を見てることしかできませんでした。

  「もっと強くなりたい」そう思って、中学からレスリングを始めました。高校はレスリングが強いところへ、ってT体育大附属を受けました。はい、ライオンのマークで有名なあそこです。ライオンのように雄々しく強くなりたかったんです。

  コーチにはよく「お前のタックルには気合いが足りない、死ぬ気でやれ」と叱咤されます。思い切りが足りないというか、本気でいって傷つけたらどうしようって、考えちゃうんですよね。

  そういう意味では有希の方が心は強いんでしょうね。あれだけ泣き虫だったのに、芸能界に飛び込んで、歌とダンスをがんばって、ついに憧れのアイドルという仕事についたんですから。本当に尊敬してます。

  え?あ、はい。今でも好きですよ。でも、アイドルって恋愛禁止なんですよね?有希の丸坊主姿とか見たくないです。邪魔はしたくないし、応援してあげたいです。小さい頃に何もしてやれなかった分も。

  白ゆき姫の白馬の王子様にはなれなくても、七人の小人の一人くらいにはなりたいです。もちろん、今年の生誕祭も黄色のキングブレイドを振って、お祝いしてあげようと思ってます。


  【折原有希(黄色)】

♪<キースをあげるよー…………>

『初恋サイダー』が聴こえると、私どんなに熟睡していても起きられる。朝だ。

  スマホの画面をタップしてアラームを止める。起き上がって、ベッドを整える。メンバーのみんなでお揃いにしたサクランボ柄のパジャマから、制服に着替えて、洗面所へ。シャワーを浴びて、泡をたっぷり作って毛穴の汚れを落とす。放っておくとイチゴ鼻になっちゃうからね。シャンプーもコンディショナーもボディソープもメンバーとお揃いのSABONのやつ。ちょっとお高いんだげどね。必要経費ってやつなんだけど、社長に言っても経費で落としてくれないの。高梨社長のケチ。

  部屋に戻ってドレッサー前で変身。まずは急いで化粧水で失われた水分を補給しなきゃ。次は乳液。ライブやカフェの時はここから見違えるようなお化粧をするんだけど、今日は学校だから自然に見えるリップだけ。このリップは前にカカシからもらったやつ。

  髪にドライヤーをかけて、ヘアアイロンでストレートにする。アイドルの命のバングもしっかりアイロンをかけて固定する。今日は……よしポニーテールにしよう。担当カラーの黄色のシュシュでまとめて……あれ、シュシュがない。トトの首輪にしておいたはず、あそっか、トトはベッドの方に移動させたんだっけ。

  トトは犬のヌイグルミ。トトが元いたドレッサーの上には、パパが昨日くれた誕生日のプレゼントが置いてある。今年は白雪姫と七人の小人のフィギュア。パパのセンスはもう18回目だから充分把握してる。「どうせ今年も」と思ってたら、案の定白雪姫関連商品。アマゾンじゃないんだから。たまには別のにしてほしいのに、パパったら「名前の由来なんだからいいじゃないか」って。

  雪のちらつく日に産まれたからユキ、雪だと安直だから有希。ここでもパパのセンスを疑っちゃうのは私だけ?それでいじめられたことだってあるのに。

  いじめられて泣いているのを慰めてくれたのはいつもママ。ある日、いつものように泣きながら帰ってきたら、ママがテレビをつけて

「有希、これを見て元気出しなさい」

って。画面の中では可愛い女の子たちが可愛い衣装を着て、歌って踊ってた。私すっかり夢中になって一緒に歌って踊って、いつもママに見せてた。

「私もアイドルになりたい」

「きっとなれるよ。がんばってね」

  でもそのママが、私が小6のときに突然ガンになった。進行が速かったらしくて、気づいた時にはもう手遅れだった。私また泣き虫に戻っちゃった。

  でもそんな時に出会ったの、女神ももち様に。

  超絶かわいくて、歌が超上手くて、ダンスも上手で、トークも超面白くて。

  こんな人がこの世に存在するんだ、私もこんな風になりたいって思った。

  特に『初恋サイダー』のハモリを真似したくて、友達を誘ってカラオケで練習したんだけど全然ムリだった。

  それで音楽とダンスを基礎から学べる学校を、って芸能科のあるS女子大附属に行きたいって。ちょっと(かなり)学力点が足りなかったんだけど、パパがつけてくれた家庭教師の先生のおかげで何とか合格した。

  そこで同じクラスにいた杏花ちゃんと仲良くなったの。

  杏花ちゃんも小さい頃からアイドルに憧れていて、中学までジュニアアイドルもやっていたんだって。

  ある日、一緒にベリーJAMプロダクションのオーディションを受けたら、なんと二人とも受かっちゃった。それで今『虹色ドリーミング』のメンバーとして活動してるの。私が黄色担当、杏花ちゃんがオレンジ担当。

  毎週月曜に定期ライブがあるし、対バンも結構出てるし、真紀先生のレッスンは厳しい上に、学校の授業もあるから、今年三年目だけどかなり上達したと思う。

  ソロパートやセンターもやらせてもらえることが多くなった。うちのソロやセンターって毎月オーディションみたいなことをして決める他に、チェキを撮った枚数も考慮される。その点ではかなりカカシのお世話になってる。

  ドリーマー、これは虹色ドリーミングのファンの総称なんだけど、その中でカカシはトップオタ、トップオタっていうのはファンの司令官みたいな人のこと。

  ユキちゃムズ、これは私推しのファンの呼び名で、その中でもカカシは一番CDを買ってくれてる。チェキ券は誰に使ってもいいんだけど、全部私に使ってくれてる。その辺りは昨日のテレビでも話したけど、見てくれた?


  はい、じゃあここでメンバー紹介します。


  赤色担当 中川華蓮。ニックネームがカレン。美人でスタイル抜群。モデルやグラビアに引っ張りだこで、有名な週刊誌にもたまに出てる。曲中のあおりなんかもやってくれる。好きな食べ物はイタリアン、でもナポリタンには殺意をもってるらしい。


  橙色担当 安達杏花。ニックネームはキョーちゃんかキョウカ。ドリーマーには内緒だけど私のクラスメイト。太陽スマイルの反面、ちょっぴり泣き虫。ガンプラやアクセ作りが得意。6人兄弟の一番上で、家事も得意。


  黄色担当 折原有希、私です。最年少。ニックネームはユキちゃんかユキちゃむ。アイドルオタクで、SBYグループはほぼ全員言えます。


  緑色担当 飯田莉奈。ニックネームはリナチー。アニメオタクでコスプレイヤー。ゲーマーでもあって、私でも知ってる有名なゲームの公式ナントカダー。高校時代に軽音部でドラムをやってたみたい。エナドリの緑のモンスターが大好きでいつも飲んでます。


  水色担当 天野澪。ニックネームはミオタン。 リーダーだけど、ドがつくほどの天然さん。背が低くて童顔だから、ツインテールとかにすると一番年下に見えます。好きな食べ物はチョコレートケーキとラーメンだけど、太るからチョコケーキは年一、ラーメンは月一までと社長から厳命されてます。


  青色担当 寺嶋あおい。ニックネームはアオイ様。ファンたちは自ら下僕と名乗ってる。元は引きこもりの陰キャだったらしいんだけど、今はクールなドSに目覚めたみたい。MCでミオタンのボケにツッコミをよく入れてる。年齢非公開、というか私たちも知らないんだけど、ビールが大好きだからきっと20歳以上。


  紫色担当 平月ゆり。ニックネームはユリポン。実家が農家でお米を愛してる。ごはんをおかずにごはんが食べられる人。でもグルメでもあってお店をたくさん知ってる。三人姉妹の長女らしい。メンバーで一番歌が上手い。


  以上、私たち虹色ドリーミング、略してニジドリです。メジャーデビューCD『シークレットラブ』が絶賛発売中です。サブスクでも聴けるので是非。

  次のライブは、本日の19時、秋葉原虹色カフェで私の生誕前夜祭があります。その次は明日、新宿アルトシースタで生誕ワンマンをやります。どちらも声出しとリフトはOKだけど、ダイブやモッシュは危険なので禁止です。

  よろしければ足を運んでください。

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