保護会の担当保護司が真面目な人間のためか、俺が逮捕される前のアパート(そのままになっていた)に住みたいと希望したからか、捕まっていて滞納した家賃を納めなければならないことになった。逮捕前にも二ヶ月滞納していたため、その金額は合計ちょうど100万円だ。俺はゼロどころかマイナスを抱えることになった。しかも生活保護で借金を返すことは認められていない。俺はこの借金をあと5ヶ月の間に完済しなければならなくなったのだ。ひと月20万……無理だ。刑務所にいた若い奴の言葉を借りると「それ無理ゲーっしょ」だろうか。俺は借金からバックレることにした。アパートから必要な物だけを持ってきて、大家から電話が来ても全て無視した。

  保護会を満期による円満退所した俺は、刑務所をいっしょに出た仲間の内で一番近所にいる男に相談してみた。男は会社をいくつも持っていたから、そのどこかで雇ってくれ、その寮に住まわせてくれると言った。が、デリヘルの店長は経験がないから無理だ。運転手ならできるが、人手が足りているとのこと。土工も無理。清掃も無理。結局男の元で、不用品の回収を行うことになった。

  今日は墨田区の家庭、明日は千代田区のオフィスと、色々な場所を指示されて翌朝に軽トラで向かい、そこで『金属製品や電化製品その他金に変えられる物』を回収してくるのだ。ちなみに俺は古物商の資格も産廃業の免許も持っていない。金属以外は別料金で引き取って、夜中に河川敷や山の中に投棄する。回収は俺一人で行く。回収した物を金に変えるのも、投棄するのも俺一人でやる。男は行く場所の指示と、あがりの回収、それと営業もやっているらしい。

  あがりの金額が確定したら、いなげやの駐車場で合流し、男にあがりと金額を証明する明細を渡す。男は俺に毎回5000円をくれる。あがりが50000円を超えた時は10000円くれることもある。そして俺は軽トラで寮へと帰路に着くのだ。

  この仕事が割に合わないだけでなく搾取されていること、違法であることには薄々気づいてはいた。男は「この商売で捕まったことは一度もないから大丈夫だ」と言った。心配が別の形で現実となったのはふた月過ぎた頃だった。

  軽トラのボディをガードレールでこすってしまい、黒い擦り傷ができて、フロント右のウインカーを破損してしまったのだ。男は烈火のごとく怒った。「弁償しろ!できないなら給料から引く」と言われ不承不承ながらもその提案を受け入れた。働いても給料は0。もう0銭は嫌だ。男は「オレからバックレようとしても、ヤクザにも警察にもツテがあるからムリだぞ」と脅してきた。男への借金は知らぬ間に100万円以上になっていた。男は「金がないなら親か兄弟からひっぱってこい」とヤクザ紛いのことを言ってきた。兄弟がなく、親も他界していたので、男の提案で『ソフト闇金から金を借りてバックレる』ことにした。

  何度となく繰り返している内に、お触れでもまわったのか、「お前詐欺師登録されてるから、もうどこからも借りれないぞ」と闇金業者に言われ、二進も三進も行かない状況になった。俺は男からもバックレる決意をした。逃げるなら夜中、つまりは夜逃げだ。見つかるわけにはいかない。

  俺はSUICAにたまたま入っていた金でできるだけ遠くへ、そしてできるだけ見つかりにくい場所へと逃げた。逃げた先は、俺のような奴がいても不自然ではない街、新宿だった。