そんな頃、子供たちの通う学校で、子供たちがもっと本を読むようにしようというキャンペーン始動のため、色んな家庭の親から話を聞きたい、ミーティングに参加してくれる親募集というのがあり、参加した。



 私は本は好きだけど、読書家としての積み重ねがない。子供の頃は本を読む習慣も本への憧れも持ってなかった。でも大人になってから、本がすごくて、本を読んできた人には幅があり余裕があるというのがわかったので、子供たちは本の魅力を知った子に育てようと思っていた。結構それは成功していて、2人は興味があれば大人向けの本でも読み、インターに通って日本語力への心配が募り始めるなる中、漢字がいっぱいの日本語の本も日常的に読んで楽しんでいた。たいていこういう会には、自身もすごく読書家で本のことならなんでも好き♡みたいな親が参加するだろうから、私のような読書初心者は、却ってよいサンプルになるだろうと思った。それに、私も本のことをもっと知りたかった。あと、こういう、何をするのかわからない会に日本人の親が参加することはほとんどないので、その点でも邪魔者にはされないだろうと踏んだ。

 



 参加した親は5人。結果的にいうと参加した私たちは超ラッキーの大当たりで、参加しなかった多数の親御さんたちは、すごくいい音楽団が息遣いも聞こえるほど近くでほとんど自分のためだけに無料で演奏してくれる機会を逃したぐらい、もったいないことをしたと思う。これは、フィンランド出身アメリカフランスドイツ育ちで、生徒の読書への関心アップがその年の役割に加えられたという先生が考えた企画で、ミーティング自体にも技があった。図書室司書のガラガラ声アイルランドアクセントの先生も加わって7人で、第一回は、自分が本に対して持ってる印象と本との関わり具合、子供たち&家族全体の本との距離、本への関心などについて、それぞれのことをトークした。



 自らも本ラブのトルコ系お母さんは、いい本をたくさん知ってるから子供たちの年齢にあったのを勧めて読ませていると。あの本、この本、ほら、11歳と言えばやっぱりこれ、7歳にはあれでしょう?と、具体的なタイトルをあげて、他の参加者の大きなうんうんを得ながら、本上級者トークが進む。でも一番上の子を筆頭に、最近私が選んであげているいい本より、友達が読んでたとか、カバーの絵が好きとかいう理由で、別にいいんだけどそれで何になるの?という本を読みたがる。どっちも読んでくれるならいいけど、子供たちは勉強もテニスも柔道もあるから忙しい。限られた時間にはいい本を優先して読んでほしいんだけど。という話。インドお母さんからは、子供たちにフィクションを読ませなければいけない意味を知りたいと。主人も私もドクターで、サイエンス系の本ばっかり読んで育ったけどこのように成功している。学校で進められる本はフィクションやファンタジーが多い。あんな魔法とか、友達のために自分の持ってるものを使っちゃうとか、実際ではないことばっかり読んで、ごめんなさいね、でもばかになっちゃうんじゃないの?と少し心配なの。友達のために、とそういうことばかり習って、そのために自分がホームレスになってしまったらどうなる?と。あとは、自分が子供の頃のようにたくさん読ませてあげたいけど、時間がない。本が高い。母国語の本が手に入りにくい、英語やオランダ語で読める本だとレベルが下がっちゃって子供たちにはつまらないというバルカンの国の人。セルビアだったかな。あともう1人はどんなことを言ってたか忘れた。それから私。子供たちを本好きにするのには成功して、今は本屋と図書館に子供たちを連れていくだけでいい。子供たちは勝手に次の本を見つけてきて読んで楽しんでいる。読んでる本のことをあまり話してくれないから、それから何を得てるのかはわからない。学校や専門家は本を読め本を読めと言っていて、大事なんだろうなぁとは思うけど、本を読んでこなかった私もまあまあ普通に生きてる。あなた方読んできた人は持っていて私に欠けているのは、具体的には何ですか?子供たちに本で何をあげられるの?読むのって結構時間とられるけど、そんなに大事ですか?どのくらい? ガラガラ声のアイルランドは、時代を超えた不朽の名作より、話題の本やベストセラーが好きだった。子供たちもそういうのに触れていくべきだと思うけど、そっちをより推薦していっていくのについてみなさんどう思う?



 主催のフィンランドは、まずはあなたたちのことをなんでも聞かせてください、というスタンスでいて、ほとんど喋らない。参加者の一人のように、人の体験に質問したり、関連した自分の体験を少し語るだけ。あとからわかったのだけど、このミーティング自体がもう参加者にインスピレーションを与える場になるよう設定されていて、フィンランドが私たちに何を教えたいかも初めから決まっていた。でもプレゼン形式にすると、さらっときいてわかったような気になるだけで何も残らない、話し合いをしながら人の話をきいて自分のことも合わせて考えるということをすると、深く印象に残り、その後も生かせると。そういうわけで企画された、リラックスしたお喋りタイムのような、子供にもっと本をのプロジェクトだった。



 そのあとも3回ミーティングは続いて、毎度トルコもインドもバルカンもアイルランドも、(もう1人は途中から来なくなった。時間の無駄だと思ったらしい。)ほー、そんなこと考えてるんだ、というようなことを話すので、私にはおもしろくて、にやにやと発見が止まらなかった。参加者が互いにアドバイスするというのはあったけど、フィンランドがずばりの答えを言うことはなかった。答えの周りっぽいことをぼんやり目に言うだけ。答えを持ってるけど言ってないな、というのは途中からわかってきた。いい体験ができた。

 



 私たち5人が参加したお喋り会風セッション修了後、フィンランドは、ある時はプレゼン方式、またある時はペアワーク中心と、いろんな手法でこのリーディングプロジェクトを展開させていった。時々学校で会った時に、進捗状況を聞くのは楽しみだった。でも私がどんなにうまくやっても上司には結果が見えにくいのよねぇ~、来年度給料倍増というわけにはいかないわ、うはははは、でもうまくやって親たちがインスパイアされた分子供たちが強く、幸せになるからいいのよ、と言っていた。


 その後少しして、学校では、ランゲージコミッティー(Language Committee) という、インターナショナルスクールとしての多言語環境を整える+英語(学校のメイン言語)がいまいちの生徒たちのための総合的なサポートを目的とする委員会ができた。フィンランドのようにメインで担当する先生が一人と、サポートの言語専門勉強経験ある先生数人、生徒代表、それと親というメンバーの委員会。フィンランドが紹介してくれたそうで、私はそれに呼ばれて親代表その1で参加することになった。そこで学校で一番英語の上達の遅い日本人生徒たちについてなど、話し合うことになる。