そういう、なんというか低次元のモヤモヤについて、それをするつもりで集まったのではない人達がやってるから、もめごともイライラも多いのだと思っていた。キッチンスタッフがキッチンで働くようになり、イベント組がイベントに集中するようになって、フロントスタッフがフロント業務をするようになったら、このカオスは終わるんだと。

 But it turns out that I was wrong. 
 カオスはいつまでも続いた。少なくとも私の中では。

 オープンして普通が起動しだしてからも、フロントでは、誰がなにをして、こういう時にはこうする、というシステムはほとんどなかった。チェックインとか当たり前の細かい作業についてはもちろん決まってる。でももっと大きい方とか、周辺の、ちょっと以上変わったことが起こった時にどう対応するかについてなどの仕組みが、なかった。小ボスを中心にだんだん作っていくつもりなのかと思っていたけど、私が辞めるまで何も変わらなかった。一つ何かが起こるたびに、こうしようという話は出たり出なかったりするが、継続しない。昔日本のファミリーレストランで働いた時の、マニュアルで全部決まっているのと正反対だった。



 研修中、自分で判断する人になってください、という話はあった。自分で解決できる人になってください。
 私は、この会社のそういうところに惹かれていたと思う。がちがちより、こっちのフリースタイルの方が、高度で洗練されていて、働いている人の成長や充実感につながると思うので好き。がちがちでは、頭を使わずにロボットになればなるほどうまくいく。前回帰国した時には実際にロボットがその役をやっているのも見た。でも提供するサービスの水準を考えたら、フリースタイルの場合は、働く人個人個人のレベルがマニュがちスタイルよりだいぶ高いところにないといけない。で、私たちのフロントグループの個人個人のレベルはというと、全然そこに達していない感じだった。いや。マニュがちと比べると突き出るぐらい上をいってる部分もそれぞれが持ってたけど、標準装備に達していない部分も、すごくマイナス方向にはみ出していた。


 最後の方、ここで働くのもういやだなぁと思い始めていた時に感じていたのは、小ボスもその下のミニミニボスも、誰がどこで上下にでてるか、全然見てないこと。だからもちろんそれについて認めることも、指導も、調整もしない。それで、二番目タイぐらいで嫌だったのは、自分には下にはみ出てるとこがあるとも認識してなくて、いつも超堂々としてる子を、彼らが次のミニミニボスに起用しようとしていたこと。彼女はうろおぼえで誤ったイベント情報をお客さんや他の従業員に伝えたり、お客さんの洗濯物を預かって忘れてなくしたり、洗ってないまま1週間後のチェックアウトの日に返したり、英語のお客さんとはたいていチンプンカンプンなコミュニケーションをしてお客さんをイライラさせたりしていたけど、いつも本当に堂々としていて、誰にも聞かずに最後までやる。見ていてすがすがしいくらい。ドイツ生まれドイツ育ち、もちろんドイツ語はとても上手だった。でも私は心配でしょうがなかった。彼女は『自分で判断する人』ではあったけど、『解決できる人』ではなくて、『問題を作って残していく人』だった。でも小ボスたちの評価が高い。逆に、自分まで情報が回ってきてないことについて、いちいち小やミニに聞いて確認するクリスティーナや私は、彼らにとっては未熟な働き手なのだ。小ボスにも下のミニミニにも、今大きく問題として目の前に迫ってこない問題は、問題とみなさなくていいようだった。多分それは彼らがギリギリ無責任だから。か、もし悪気が全然ないのなら、経験と想像力が足りないから。



 一番嫌だったことは、お客さんの忘れ物や落としもの、新しくくるお客さんやイベント用に届いた小包を、フロントのみんながその辺にほったらかしておいて、なくしたり、知らんぷりしたりすること。イベント用の方は実際に現場で怒られたりすることもあるので、少しの問題意識はあったみたい。でも対応はしない。何回繰り返されても。忙しいなら、それかそういうのが苦手なら、じゃあ私が、と、スムーズに管理できる方法を考えて提案してみた。リストを共有して保管場所を決めて、他部門にも連絡して。でも彼らはほとんど反応しない。仕事が増えるといやだったのか、下っ端の私の提案を受け入れたくないプライドの問題か知らないけど。私がいる間、忘れ物は見つかってお客さんの元に送られたし、イベント用の小包もなくならなかったけど、多分今はまたもとに戻ってる。地下の倉庫でお迎えを待つ忘れ物についてお客さんから連絡があっても、残念ながら見つかりませんでした、他に私たちにできることがなにかあれば遠慮なくお知らせください、良い一日を、と、忘れ物を持ち主と再会できないままにしているし、イベントのお客さんには、「その荷物がここに着いたという証明できるんですか?」ときいて怒らせてる。でもたいていは負ける方向。お客さんには運送会社からお届け完了通知がいってる。それでももちろん、負けにはしないし、ごめんねは絶対に言わない。今ここにないんですから、しょうがないですよね、という方向で締めくくろうとする。

 楽しかったことはそれ以外全部。技術部門の人もキッチンもイベントも企画グループも、それぞれの知ってることや私生活がみんな違うので、話をしたらとてもおもしろかった。一年の仕事経験。文化の違い、もあった。でもその部分は勉強になったし、むしろ楽しんだ。嫌だったのは、違いではなくて一緒の方。世界共通のこと。いい加減はいかんということ。

 

 でもクビを告げられたのは私の方!ドイツ語が下手なのと休みに対してリクエストが多いというのが理由。リベンジするならドイツ語がうまくなってからやればいいけど、それは人生があと50回ぐらいあった場合でいい。私には他にもやることがあるのだ。