「うー!寒い!!」

冨樫卓矢は小学5年生。

今日から、3学期の始まりだ。


・・冬休みに買ってもらったプーマのジャンパーは、かっこいいけど、ちょっと薄手なのが玉にきずだな。

灰色のマフラーに顔をうずめながら、早足で通学路を歩いていると、見覚えのある後姿を発見した。


「よ!祐!おはよう!」同じクラスの吉沢祐だ。

「おーびっくりしたー!卓矢じゃねぇか!冬休み、何してたー?おれ、ゲームばっかしてた!」

「俺も俺も!お年玉でGG5買ったぜ!」


ここは、埼玉の開発途上地。巨大スーパーもここ数年で建ち並び必要なものはなんでもそろうけど、昔ながらの商店街があり、古いお店もいまだに多く並んでいる。


祐たち家族は、去年、東京から引っ越してきた。なんでも、土地が安く、都心へ出る交通の便も良いからだそうだ。

祐の親は、両方とも東京で働いている。


祐のような友達は、ほかにも何人か知っている。今度の中学は、今建設中のマンションの近くだから、あと2年もすれば、そういった友達がもっと増えるだろう。


僕はというと、生まれも育ちも、埼玉は下町の田舎っ子だ。ゲームだって、祐たちがみんなやってるからはじめた。みんな、小1とかからゲームをしてるっていうから、びっくりだ。


僕が小学校に入ったころは、周りにテレビゲームを売っているおもちゃ屋さんなんてなかった気がするし、そのころは、ちびっこ野球クラブに所属していたので、いつも放課後や休みの日は、学校の校庭を走り回ったり、キャッチボールをしたり、ずっと選手にはなれるわけではなかったけど、そこそこ試合に参加したりもしていた。


思い返すと、体育以外で外で遊ぶことは、小5になってから、ぱったりなくなっている。学校が終わると、いつもだれかの家でゲームをすることになっているからだ。


不意に、キャッチボールするみたいに、片手を『ブン』と振ってみた。

おぉ、まだまだイケルな。そう思った。


僕は、ピッチャーになりたかった。

そうそう、肩だけじゃなくって足も肝心なんだよ。

一歩、足を踏み込もうとして、とどまった。


祐は、歩くのがとても早い。ぼーっとしてると、すぐにおいていかれる。



僕は、かるく駆け足をして、祐の隣に肩を並べた。

祐は、新しいゲームの攻略本を買ったらしく、その裏技を僕に説明してくれている。


「へぇ~!」といいながらも、僕はそのゲームを、やっとこの前、お年玉で買ったばかり。まだそのステージをクリアしていないから、さっぱり意味がわからない。


学校まで、あとはこの商店街を一直線だ。


この、『青空商店街』は、僕のおとうさんが生まれる前からあるものだそうだ。

昔は、野球の帰りによくこの通りの駄菓子やに寄ってたっけ。
今じゃ、お菓子はもっぱらコンビ二で買う。


近くに巨大スーパーやコンビ二ができたのに、うちの母は必ずこの商店街で買い物をする。



「今日は晴れるらしーぞー!」


金物屋のおっちゃんが、おもてに『よいしょ』と看板をだしながら、中にいるおばちゃんに向かって、そう叫ぶのが聞こえた。



マジかよ・・かぁちゃんのウソツキ。


僕は、水色のジャンプ傘を、うっとおしくぶんぶん回した。

出掛けに、『今日はどしゃぶりらしいわ!』と、猛スピードでかぁちゃんが飛んできて(僕にはオニババに見えた)、強引に渡してきたのだった。



「おい~卓矢、あぶねーよ!」


あやうく、通りすがりの人に傘をぶつけてしまうところだった。


「おぉ!ごめんごめん!ぼーっとしてた。ありがと。」


「だいじょーぶか?まだ冬休みモードなんじゃねえーの?」祐は、また新しいコートを着ている。ファーのフードが付いた、あったかそうなダウンジャケット。


『祐くんちとうちは違うんだから!我慢しなさい!』

いつかの母の声が聞こえたようで、無性にこの傘を真っ二つに折って、おもいっきり投げたい衝動にかられた。