[ シチズン プロマスター BN2024 ]
 

■[ 狙った異物感 ]
セイコー社のマリンマスターSBBN035(写真左)は、スーツに合わせる36~39mm径くらいの3針ビジネスウオッチと比較すれば「大きくて武骨なゴツイ時計」と表現することもできますが、着け心地はまったく違和感の無い、心地よいものです。意外とまっとうで、決して腕にカドが当たったりしない、良い品です。
国産のクオーツ・ダイバーズのなかには "いまなにか腕に乗せている感" が強力なゴツイ時計があります。おそらく着けた時の「異物感」も商品力=プラスの個性の側に数えて企画されたような時計です。
 
■[ シチズン プロマスター BN2024・・・写真右 ]
このくらいの厚さの時計でチタン素材ではなくステンレス素材を用いると、かなり重くなります。もし万一ひったくり事件現場に出くわして、セイコークラウンを投げつけ、それが賊の顔に当たってもそのまま逃げていくでしょう。けれどもこのBN2024が賊の頭部に命中したならば、賊はその場に昏倒するはずです。そのくらい重い。
 
■[ チタン素材とステンレス ]
●時計のケースがチタン素材であれば大きくても軽くなります。軽いメリットがある一方、素材の質感・美しさはステンレスの方がいささか上かなあと思います。スクラッチ・ひっかき傷もチタン素材のほうが付きやすいようです。ところで「チタン」という日本での呼び方が気になります。
日本において英語のアイ(i) を "イ" とローマ字読みして、オリオン座・ビタミン・ディレクター・ミクロなどと呼んでいるカタカナ語は、かの地ではオライオン座・バイタミン・ダイレクタ・マイクロ等と発音されています。
 同様にチタニウムは実はタイタニウム。短縮して呼ぶならば Titan はチタンではなくてタイタンです。 タイタンは神話に語られる巨人であり何かの立派さや強さの形容にしばしば用いられます。あの沈んだ客船も「チタニック号」ではありませんでした。というわけで「この時計はチタンケースだ」という発言や文章を耳目にすると、いつもなんだか引っかかって、違和感があります。まあ自分だけ独りで「ああ、その時計はタイタニウム製なんだね」などと言い張るような真似はしませんが。
●名前の読み方は別にしても、研磨されたステンレスの質感の方が私の好みです。
学生のころ理科・科学の時間に「すいへーりーべーぼくのふね♪」と覚えた元素の周期表。周期表に載っている物質はそれ以上分解できない「元素」です(核反応等の反則技は別)。水は元素ではありません。H2Oは水素と酸素に分解できますので。周期表にチタンという元素Tiはありますが、ステンレスという元素はありません。ステンレスは鉄Feにクロムなどをわずかに添加した合金で、ほとんど鉄です。比重もほぼ鉄と同じ。英語のステンレスは「Sutain-less steel=ステンレス・スチール」つまり「錆びにくい鉄」という呼び名です。
屋外の看板やモニュメントなどにもステンレスはよく用いられています。塗装すると、大きな面でパリッと剝げてしまいがちなので、大抵はヘアラインや鏡面仕上げで素材の表面をそのまま見せることが多いと思います。
 
■シチズン社プロマスターBN2024は重くて厚くて、存在感が強い時計です。
厚さは17mmくらいでしょうか。厚さ13mm位の時計と数mmしか違わないのですが・・・ヒトは身体の周りに、肌から15mm位までの "制空圏" をまとっているのかもしれないと感じます、自動車運転における車体感覚のように。
厚さ13mmの時計はまずどこにもぶつけないのに、この17mm厚の時計はけっこう「ゴン」とぶつけます。13と17の間のどこかに安全境界があります。机と壁の間を通るときにゴン。薄く開いたドアの隙間を通るときにゴツン。棚の奥の隙間に手を突っ込んだときにゴン。
身体には、日々暮らしていく中で獲得した、肌からの高度15mmくらいの制空圏がある気がします。普段は意識していないけれども、ドアとドアの隙間を通るときにバランスを取るために振った腕は実はドアのエッジから15mmくらいの、意外とギリギリのところをヒュッと通過している。ギリギリだけれど、決して当たらない安全な15mmの身体マージン。
それが、厚いBN2024を着けると、これまで意識しないままギリギリを通過していた暮らしの活動の中で、ゴンゴン周囲のモノに当たってしまう。そんな感じです。とはいえ、軽自動車から4tトラックに乗り換えたら初めは不慣れでぶつけるけれど、そのうちにトラックの車体感覚に慣れるでしょう。BN2024も、2週間着けていると慣れてきます。重さや厚さに慣れると、そこから先は時計に気を遣うことも減り、ぶつけなくなり、存在感のある個性を楽しむ余裕がでてきます。
 
■シチズン社プロマスターBN2024は、グッドデザイン賞を受賞しています。ムーブメントはエコドライブで電気を供給するクオーツ式。外装ケースは手が込んでいて、メカニカルに密度が高い造り込みの、上質感があります。文字盤は陽気にカラフルで気取った辛気臭さなどは皆無。無理してデザインに注文を付けるならば「盤面輪郭のすり鉢状リングの120本ストライプが太くて漫画っぽい」「蓄電力計の青色グラデーションの円弧のプリントの解像度が高くないために青色が薄い側で印刷ドットの点々が見えるその安っぽいプリント感がちょっと」等、いちゃもんはつけられます。でも、気に入っています。
■つまり、好き嫌いと、良し悪しは別のこと。『ハイレベルな超絶技巧の素晴らしい演奏だけれども、これらの楽曲は僕の好みじゃない』  『時間つぶしにもならないような低質な3流映画だけれど、なぜか好きなんだよね』 という矛盾が人間です。プロマスターBN2024は重すぎますよ確かに。盤面には祭りの夜店で買った時計みたいな風情がどことなくありますよ確かに。けれども、この時計好きだな俺、と感じるのだから良いじゃないですか。購入してよかったなと思っているのだから、おかまいなく♪ その他デザインに関する感想はまたの機会に♪