[ セイコー 社アルピニスト ]
 
■自転車で走行中には、にわか雨に降られることがあります。
また真夏には激しく汗をかきます。ハンドルへ向けて下方に伸ばした腕は汗が伝い、手首周りの腕時計バンドはズブ濡れとなります。
私が時計に防水性能を求めるのは、時計をいちいち心配しなくても済む「安心感」のためです。
 
■シチズン社もセイコー社も、近年は10万円以下の機械式時計を豊富にカタログに掲載しています。目移りするほどの手ごろな機械式時計たちのなかで、シンプルな3針+200m防水でありながら、海のダイバーズではなく、天候が変わりやすい山向きの機械式時計があります。性能諸元を眺めると、かなり魅力的に思えるその時計が、セイコー社のアルピニストSARB017です。
 
■ブリティシュグリーン色の文字盤に、金縁アイボリー色の針、ブラウン色の皮革ベルト。短針にはロレックス社エクスプロ-ラーのベンツ針(楕円)風の形状アクセントがあります。
2つある竜頭の一つは、方位を記したインナーリングを回転させるためのもので、単純な「見るだけ3針」とはことなり、時計とやりとりできる楽しさがあります。そして文字盤には200BARと防水性能が記されています。いい時計だな、と思います。海外仕様では黒文字盤モデルもあったようです。
 
■日頃の自転車乗車時間が長いことから機械式時計を着けることが減ってきた私ですが、たまに作業着ではなくてスーツを着てお客様のところへ出かける必要が生じた際などに具合が良いだろうと考えて、このアルピニストを手に入れました。
けれども実際には、写真で銀色文字盤を見せている古いセイコークラウンをスーツに合わせることが多いのです。
自分の中でなぜなのかはっきり理由づけしているわけではありませんが、なぜかアルピニストではなく、セイコークラウンを選んでしまうのです。
もしかしたら径と厚みのバランスのせいかもしれません。セイコークラウンに慣れた腕には、アルピニストは径に対してボッテリ厚すぎてスマートな印象を削いでいる気がするのです。防水のために厚いのかもしれませんが。個人的に『この径でこの厚みはちょっと....』な気分があるように思います。
■あとは文字盤のグリーンのコーディネートが難しいのかもしれません。
色彩は好みの問題と思われがちですが、光の波長の科学なので、ちょうど音の波長に万人が好む和音や嫌う不協和音があるように、組み合わせルールがあります。
ブリティシュグリーンに合わせる色彩配色手法は、4種類。
 
①( 同系色 )
同じグリーンの色相で彩度明度を違えた明るいグリーン系の色彩を組み合わせる。
グリーンのネクタイもシャツもスーツも持っていません。
 
②( 類似色 )
色相環上で「緑」の色相の隣にある「青緑」や「黄緑」を組み合わせる。
80年代バブルへGOみたいなそのような色のスーツも持っていません。
 
③( 補色 )
色相環上で「緑」の対角線上にある「赤」系の色を組み合わせる。補色関係にある2色の光を混ぜると透明光になり、なんとなく心地よいので昔から好まれる配色です。緑と赤の組み合わせはクリスマス伝統色ですね。書店に並ぶ雑誌のうちで青い海や空の写真を表紙にしたときの雑誌タイトルは大抵オレンジ色ですが、あれは青とオレンジが補色だからです。炭酸飲料オランジーナのオレンジの絵を乗せる地の缶色に青が選ばれたのも補色だからです。ですが、私は緑色の補色「赤色」のシャツも持っていません。
 
④( 無彩色 )
有彩色を2色組み合わせるには思慮が必要ですが、白~灰~黒の「無彩色」はどんな有彩色と組み合わせても不協和になりません。
 
・・・・私に着こなし得るのは④でしょうか。無彩色のスーツシャツのなかのアクセント・差し色として、アルピニストを活かす方法です。
 
■カラーコーディネートで私の記憶に強く印象に残っているのは、昔、ロンドンのキングスクロス駅で見かけた、素晴らしく格好良い、頭が小さくて脚が長い、細身の黒人女性です。黒人の方々にもブラウンがかった黒肌や、赤みがかった黒肌など色彩にバリエーションがありますが、その女性はクロヒョウみたいに漆黒に見える肌をしていました。その肌と、シャツの明るい黄色が、最大の明度対比で素晴らしいコントラストを発揮していました。「うお、かっこいい着こなしだなあ」と見とれたものです。
 
■単品で眺める対象として、アルピニストのグリーン文字盤が美しいかと聞かれれば、とても美しいと答えます。でも個人的には、買ってみたら、着こなしが難しいなあと気づいた時計なのです。まあ誰も、私の時計など気にしていないのでしょうけれど。