けろみんのブログ

けろみんのブログ

日記・観た映画のこと・観た展覧会の感想


2026.3.28

「チュルリョーニス展 内なる星図」展に行ってきました。

開催期間  2026.3.28から6.14まで

この展覧会は、リトアニアを代表する芸術家ミカロユス・コンスタンティナス・チュルリョーニス(1875–1911)の回顧展で、日本では34年ぶりの開催。約80点の絵画・版画・素描を通して、その芸術を紹介しています。


この日は初日なので開催記念特別講演会がありました。講師はヴィルギニヤ・ヴィトキエネさん(チュルリョーニス美術館の館長) 「継承から革新へ:国立M. K. チュルリョーニス美術館の歩み」です。


■ 国立M.K.チュルリョーニス美術館について


カウナスにある国立M.K.チュルリョーニス美術館は、国家形成の過程で1922年に設立された、リトアニア文化の核となる存在である。


チュルリョーニスの作品を中心に、絵画・音楽・伝統工芸(十字架制作など)を収蔵し、国家アイデンティティを視覚化する役割を担う。


現在は国内に10の分館を持ち、作家の旧居なども含めて文化と生活を伝えている。


チュルリョーニス展では、彼自身が作曲した音楽が会場に流れており、その音に耳を傾けながら、想像力を研ぎ澄ませて作品を鑑賞しました。


陽の光や星空、海のささやき——それらがもし色や形、音を持つとしたらどのようなものだろうか、とイメージが自然に広がっていきました。


気づけば、作品の中へと静かに引き込まれ、深い没入感に包まれました。


チュルリョーニスの作品は、理解するためのものではなく、

音楽のように、夢のように、
ただその中に身を置くことでしか触れられない世界がある感じ。

そしてその“わからなさ”こそが、
この作品の核心なのだと思います。


 理解できないまま惹かれてしまう。
それはきっと、その余白に自分自身が入り込んでしまうから。


展覧会はカメラ撮影OKです。


■ チュルリョーニスの生涯と芸術


チュルリョーニスは音楽家として出発し、後に画家へ転向。わずか6年ほどの画業で300点以上を制作し、音楽作品も約400点残した。35歳で早逝したが、その作品は象徴主義と抽象絵画をつなぐ重要な存在として再評価されている。彼の芸術は、ロシア帝国支配下での民族意識の高まりの中で生まれ、自然・神話・宇宙への探究を特徴とし、音楽的構造を持つ独自の表現を展開した。


■ 芸術の特徴と思想


チュルリョーニスの作品は、民族的でありながら同時に普遍的で、宇宙や精神世界をテーマとする。彼のいう「神」は特定の宗教ではなく、自然や宇宙を構成する根源的な力を指し、作品は観る者を瞑想的な体験へと導く。物質と精神の境界を超える表現が特徴である。



■ 《森の囁き》と初期作品の特徴




《森の囁き》(1904年)は、チュルリョーニス初期の代表作で、森の風景を抽象的に表しつつ、竪琴や音のイメージを重ねることで、絵画と音楽の融合を試みた作品である。この視覚と聴覚の結びつきは、後の芸術の重要なテーマとなる。


 ■ 風景と体験の影響




コーカサス旅行(1905年)の体験は、自然の壮大さへの感受性を深め、《山》(1906年)などに反映された。山は単なる風景ではなく、波や人物のような多義的イメージとして表現される。


■ 技法の実験


1905〜1906年頃にはフッ素エッチングという新技法にも取り組み、自然を主題とした実験的な版画を制作した。




■ 連作における主題


《閃光》連作(1906)





    光=精神の断片が「門」を通じて変容する様子を描き、可視と不可視の境界を象徴。



《春》連作(1907)






    芽吹きや成長を通して、自然の再生と生命の循環を表現。



《冬》連作(1907)





雪や氷、樹木を通じて、生と死・創造と消滅といった対立と循環を壮大な物語として描き、最終的に幾何学的抽象へと至る。


チュルリョーニスは、自然を単なる風景ではなく、音楽的・象徴的・宇宙的なリズムをもつ存在として捉え、抽象表現へと発展させた。彼の作品は、自然の循環と精神世界を結びつける独自の芸術を形成している。


■ 構造としての音楽的絵画




「フーガ」「ソナタ」連作では、絵画を複数の層(声部)に分け、モティーフを反復・変奏させることで、時間性と多声音楽的な響きを生み出した。遠近法を捨て、流動的で抽象的な空間を構築し、抽象絵画の先駆けとなった。


 ■ 主な作品と主題


《プレリュードとフーガ》




モティーフの反復や変奏により音楽的構造を視覚化。自然(モミの木)や生命(舟)を象徴として、人間の生の物語を表現。


《蛇のソナタ》




蛇を中心に、楽章構成で生命・叡智・循環を表現。最終的に円環へと至り、生命の連続性を象徴。


《海のソナタ》




海を永遠の生命の象徴として描き、波や泡のリズムで楽章ごとに展開。葛飾北斎の影響もみられる。


《星のソナタ》




宇宙を舞台に、星や天の川を通して秩序と魂の旅を表現。リズムと構造によって宇宙的調和を示す。


チュルリョーニスは、音楽の形式を絵画に移植することで、時間・リズム・構造をもつ新しい視覚芸術を創出した。彼の作品は、自然・生命・宇宙をテーマに、抽象絵画の先駆として重要な位置を占めている。




《ライガルダス》では故郷の伝説をもとに、失われた町の記憶を詩的に表現





《リトアニアの墓地》では伝統的な十字架をモティーフに、民族の祈りや抵抗、精神的風景を象徴的に描いている。






全体として彼の芸術は、リトアニアの歴史・信仰・自然を基盤にしながら、深い精神性と象徴性を備えたものとなっている。



騎士(国家の象徴)や「おとぎ話」シリーズを通じて、民族の再生や希望、精神的世界を象徴的に表現。






《祭壇》などでは、人間の精神の上昇や宇宙的秩序といった壮大なテーマが描かれ、






彼の芸術は民族性と精神性を融合したものとなっている。


■エピローグ


チュルリョーニスは1908年以降、創作の拠点をサンクトペテルブルクに移し、芸術家としての飛躍を目指した。代表作《レックス(王)》は1909年に制作され、宇宙の支配者=普遍的精神としての「王」を、多層的で音楽的構造をもつ壮大な構図で表現している。作品は同時代の芸術家から高く評価され、彼の評価は徐々に高まっていった。しかしその一方で、経済的には恵まれず、過労と精神的負担により健康を悪化させる。1909年末には重病となり、1910年に療養所へ入院。回復の兆しもあったが、最終的に肺炎を患い、1911年4月10日、35歳で死去した。


■ 作品《レックス(王)》






水面から天上へと垂直に広がる宇宙的構成

天体・天使などの反復により音楽的リズム(ポリフォニー)を形成

中央に「王」が座し、さらに大きな影の王が重なる二重構造

世界を支配する存在であると同時に、世界そのものを内包する汎神論的存在を象徴-



■チュルリョーニスは、音楽と絵画を融合させた独自の宇宙的芸術を完成させつつも、短い生涯の中で燃え尽きるように創作し、早逝した芸術家である。