経営戦略の理論は往々にして次のように言う。

差別化によって競争を勝ち抜く。
よりよいのは、差別化によって競争環境そのものから抜け出して一人勝ちすることだ。

競争戦略はしばしばこのように、競争そのものを否定的に捉えている。

だが、競争にはメリットも存在する。

それは、競争がよりよいものを創り出すインセンティブとなるという点である。

少子化が子供同士の競争機会を減少させ、ひ弱な人間を生み出したとはよく言われるが、競争が少なくなると上昇思考が働きにくくなるのは恐らく間違いないだろう。

自分を律して高みへと登るのは苦しいが、周りに刺激を受けることでそれが自然と促されることはあり得るだろう。

競争からの脱却は多様性を生む(順序は逆かもしれないが)かもしれないが、競争は特定の要素についてそのレベルをどんどん高みへと引き上げることができるのである。

アイドル業界は激しい競争を続けながら、常に差別化の機会を伺っている。

しかし芸能界という場所は似たような人間を一定数寄せ集めることによって成立する場所であるが故に、正面衝突を許さない。

例えばテレビ番組ひとつ取っても、タレント1人しか出演しないということはない。

同じ時間帯に同じ芸能人が出られなくて、なおかつどの番組にも芸人が必要だとすれば、少なくとも芸人というジャンルに数組のタレントが存在していなければならない。

他を押しのけて成長することも必要だが、他と共存共栄していかなければならないというジレンマが芸能界には存在している。

だからこそ芸能人は差別化戦略に走らざるを得ない。

「あの人とキャラが完璧にカブっていますが、あの人よりも優秀です」などという競争は勝者にとってもメリットが薄い。

むしろ彼・彼女にしかない価値を見つけ出す方が賢明なのである。

芸能人がタレントと呼ばれ、個性が重視されるのはこのような理由によるものだろう。



しかし、需給共に多様化しすぎていると言われる現代にあって、このままの多様性を許しておいて良いのだろうか。

むしろ競争を激化させ、真っ向勝負することで、芸能界全体のレベルを引き上げることが可能とならないか、私はそう考える。

AKB48の選抜総選挙は様々な評価を受けたが、彼女達の向上心を刺激し、AKB48をより高みへと向かわせることには成功していると思う。

話題性以上の成果があると感じている。

同じことをもっと幅広い形式でできないか、それが私の提言である。

とは言え、オリコンの「好きなタレントランキング」のようなレベルで行うのではない。

選抜総選挙のようにシビアに、真剣に行うのである。

棲み分けられたアイドル達を一堂に集め競わせる、例えばモーニング娘。とAKB48と少女時代の中で1番はどこか、そして誰か。

このような比較がなされれば彼女達はより広い範囲を見てより高い場所を目指さなければならない。

当然今まで以上の苦しみであろうが、これまで以上のレベルに到達できるかもしれない。

グループに所属していればグループ内の競争だけでよいし、グループ同士の競争は自分が必ずしも関与していなくても良いと考えてしまうかもしれない。

しかしこうして全体で競争が起これば、そういったグループの楽な面がなくなり自律的に努力しなければならなくなる。



もっと言えば、野球やサッカーなどのプロスポーツと同じように、アイドルにも移籍制度があってよいと考えている。

アイドルグループでは、相撲などと同様に上へと到達すると後は辞めて第一線を退くしかないという固定的なシステムがある。

その結果スピンアウトの時期や方法を誤るともう立ち直らないという非情さがある。

そこでアイドルもグループを移動したり、マネジメントが既存の人材を他のグループから獲得するということがあってよいと思うのである。

「大島優子は来年Perfumeとして活動します」

「ももいろクローバーが松井玲奈を1億円で獲得」

なんてことがあっても面白い。

もちろんメンバーだけではなく、プロデューサーが移籍するのも面白いだろう。

このシステムのメリットは人材の可能性を試し、より適した場所で更に開花させることができるかもしれないという点にある。

固定したグループで活動することのメリットも確かにあるが、才能を潰してしまう可能性があるのならば喜んで移籍を許すべきだ。

もちろん受け入れる側もである。



アイドルはスポーツのように何かひとつの軸で競えるものではない。

よってプロスポーツと同じように考えるのは安易すぎると思う。

しかしながらプロスポーツが激しい競争の中で高い技術を生み、感動や夢を人々に与えてきたように、アイドルもより競争的な環境となることでもっと大きな夢や希望を人々に与えられるのではないだろうか。

芸能人は夢を売る商売と言うのなら、夢を売る能力を正面から競い合わなければならないだろう。