「ひーむら」
「・・・」
「ひ~むら、ってば」
「・・・」
「なあなあ、火村」
一筋縄ではいかない陰惨な事件について考えていた俺は、しつこく俺の名を呼び思考の邪魔をするぽんこつな助手の声に、小さく舌打ちをする。
現役の推理作家のくせに、また斜め上をいく推理をしたのか・・・?
「火村」
「なんだよっア・・・んんっ」
どう考えても突破できない謎にイラつきながら振り返るのと、アリスが俺の肩に手をついて伸びあがって唇を重ねるのはほぼ同時で。
驚きで声が出ない俺に、してやったりな笑顔を浮かべたアリスは、とんとん、と自分の眉間を指差した。
「ここにしわを寄せても良い推理はできんで、火村。少し落ちつけ」
「落ちつけって、おまえ」
それでキスされたら、落ちつこうにも落ちつけない・・・などとはいえない。なぜなら、確かに俺は、さっきまでのイライラがどこかに飛んで、すっ、と冷静になっている自分を感じたから。同時にあれほどてこずっていた事件の構造がうっすらと見え始めた。
無意識にスッ、と人差指で唇をなぞる。
ああ、そうか・・・。
「・・・アリス」
「ん?」
「おまえは大した助手だよ。ポンコツなんて思って悪かった」
「は?え、ちょおまてっ。おまっ、ぽんこつってなんやねん」
俺はくすくす笑うと、たどりついた推理の答え合わせのため、現場へと足を向けた。
「・・・ったく、だぁれがポンコツだ」
呟いて、愛しい私の名探偵の後ろ姿を見送る。
「もう、大丈夫、やんな」
事件が凄惨であればあるほど、陰惨であればあるほど、火村は推理の過程でその瞳に仄暗い闇を浮かべる。
そんな時いつも、火村の抱える闇があいつを誘っているのを感じるから。
「・・・きょうは、キスの日、なんやて」
声をかけても届かなかった火村にどうしていいかわからず、人目も気にせずキスをした。
重ねた唇が冷たくて・・・。
なあ、火村。
私の存在がおまえの命綱になればいい。そのためならいつだって、私は傍にいるから。
「アリス、来ないのか?」
ついてこない私に不審そうに火村が振り返る。
「おぅ、いくいく」
慌てて駆け寄りながら、私は、これから行われるであろう鮮やかな謎解きに思いをはせた。