私は去年、ピアニストの梅沢美穂子さんとご一緒にデュオ・ドゥゼピとして「音楽の贈りもの」第一回目を逗子のホールでコンサートいたしました。今回は鎌倉での、「音楽の贈りもの」第二回目です。
そのときに演奏しましたのは、

モーツァルトのヴァイオリン・ソナタK301
ピアノソロでショパンのノクターン変ニ長調 作品27の2
ショパンスケルツォ第二番変ロ長調作品31
ヴァイオリンソロで、パガニーニのカプリス第24番
フランクのヴァイオリン・ソナタ

でした。

プログラム解説も、ここでご紹介させていただきたいと思います。長いですが、お読みいただけたら幸いです。


デュオ・ドゥゼピ
「音楽の贈りもの」

音楽 ― それは神様から与えられた、人生を豊かに幸せにしてくれる素晴らしい贈りもの!

「愛にふれるものは、永遠なるものにふれる」
ロマン・ロランのこの美しい言葉を、私はとても愛します。音楽という時間芸術はそのような感情を言葉以上に最高の形で表せるものだと思います。そして、最上の音楽にふれたとき、それは永遠の時間に匹敵するものだと感じます。永遠の今 ―それを感じることができるのは、とてもとても幸せなことです。

本日まず始めに演奏しますのは
モーツァルト(1756~1791)
ヴァイオリンソナタ ト長調 K301 です。

 2楽章から成り立つこのソナタは、1778年2月にマンハイムで作曲されました。このときモーツァルトは22歳。
 第一楽章はアレグロ・コン・スピリト。快適に、溌剌として、という意味です。この優しい爽やかな主題はまず、ヴァイオリンによってのびのびと歌われます。オクターヴの跳躍がまさに溌剌と、心の窓を開け放ってくれるようです。そして、ピアノとユニゾンで上へ、上へ、と元気よく昇り、きっぱりと意気投合したところで、主題はピアノへと受け継がれます。
 その先の楽しい展開は、どうぞ音楽をお楽しみに・・・!
 第二楽章はアレグロです。この踊るような楽しい主題は、ハミングで歌いたくなるくらい、明るい気持ちに弾んでいます。春の森の道を軽やかにスキップしてゆくような、幸せにご機嫌なモーツァルト。冗談を言って、ワッハッハと笑って、ちょっといたずらで、可愛くて、無邪気で。
 でも中間部は短調にかわり、ちょっぴり悲しいモーツァルト。そうっと、その心を私たちに打ち明けてくれます。でもそのあとはまた気分を変えて、最初の主題に元気に戻ります。

(ショパンは美穂子さんの解説にバトンタッチ。)

 はい!次は確かに独奏の部分に移り、まずはわたくしがショパンのピアノ曲を弾かせて頂きます。
 ポーランドに生まれパリを中心に活躍したフレデリック・ショパン(1810~1849)は、ピアノのために素晴らしい名曲を数多く残していますが、本日はその中から私の大好きな2曲を演奏させていただきます。

 はじめは ノクターン 変ニ長調 Op.27-1(1835年作曲)です。

 左手の分散和音にのせて、そっと語りかけるような美しい旋律で始まります。気荒め区装飾音を伴って絶え間なく流れる、このメロディーの切々たる甘美さ!中間部ではゆっくりと昂揚し、感情の熱度を高めてゆきますが、やがてまた静かさが回帰して - 最後の上昇する7連音符にはまるで点にも上るような夢のひと時が結晶しているようです。

 次の スケルツォ 第二番 変ロ長調 Op.31 は、なんと対照的な世界でしょう。1837年に27歳で作曲されたこの独創的なスケルツォは、何か不安を感じさせる運命的な動機と、激しくたたきつける和音の交錯で始まります。冒頭からみなぎるこの緊張感!その後右手によって表情豊かな旋律が引き出されますが、全体の緊迫感は少しも緩みません。コラール風の中間部を経過した後で、ショパンの抑えきれない思いは再び堰を切って激しくあふれ出します。そして結尾部の内実のある華麗さは、ショパンならではの見事さという他はありません。

 ピアノの詩人、ショパンの作品から、言うなら静と動、対照的なタブローを切り出してみました。どうぞ続けてお楽しみください。

(ハイ、またバトンタッチ!)

 さて、その次はパガニーニ(1782~1840)。有名な無伴奏ヴァイオリンのための24のキャプリス(奇想曲)作品1から、最後のイ短調キャプリスをお聴きください。
 彼はヴァイオリンの近代的な高度の演奏技術の発展に決定的な基礎を築いた天才といわれています。当時の聴衆には「悪魔に魂を売ったのでは」と評されたほどに超絶的な技巧で、ヴァイオリン演奏の可能性を画期的に広げた人でした。だからといって、彼の作品は技術だけを誇るものではなく、芸術的にも美しく幻想に富み、ヴァイオリンならではの魅力がたっぷりです。代表作のひとつとされるこの独奏キャプリスは1817年、パガニーニ35歳のときに作曲されました。本日は最後に置かれた第24番、イ短調を演奏いたします。有名な主題に続く11の変奏で繰り広げられる華麗な響きの世界には、よくここまで色々思いつくものだと本当に感心してしまいます!軽やかに飛んだり跳ねたり、オクターヴで重々しく歌ったり、ピッチカートで意外な効果を狙ったり、重音で感情が爆発するかと思うと、時には寂しく、かよわく嘆いたり・・・まるで、パントマイムの名演技をみるかのような、楽しさ。決まれば、もう、あっぱれ、ブラヴォー・パガニーニ!ここまでこうだと、気もちが良い!最高ですね。

休憩のあと、おしまいの一曲はドゥゼピの二重奏に戻って
セザール・フランク(1822~1890)の
ヴァイオリン・ソナタ イ長調 です。
 
 ベルギーに生まれてフランスで活躍した作曲家フランクは、こんなに素敵なヴァイオリン・ソナタを1886年、64歳のときに書きました。当時の名ヴァイオリニストで作曲家のユージューヌ・イザイに捧げています。イザイはこの作品を世界中で演奏して好評を博し、それが巨匠フランクには和やかな悦びであったそうです。今でも老若を問わず、世界中のヴァイオリニストに弾かれる名曲です。近代的な情感のひだを優しく的確に表現しながら、同時に暖かい、春の喜びに溢れたこの作品、私たちも大好きで、取り組むごとに希望に満ちた気持ちになってゆくのです。
 第一楽章、アレグレット・モデラートは春の暖かな日差しを思わせます。画家は美しい女性に恋をして、時間によって微妙に変わる光の中で、さまざまに色を変えてそのひとを描いてゆくようです。そのパレットの色彩は、光のきらめきとともに、まるでモネの名作・ルーアン大聖堂の連作のように、変化してゆくのです。どこか憂わしい、愛に満ちた豊かさで。
 第二楽章は、アレグロ - 激しく迸る情熱は抑えきれず、気持ちのままに思いをぶつけます。画家はときに悩み、失望に沈みます。胸の思いは再び燃え上がり、幻想は翼を広げて舞い上がり、自由に大空を翔けめぐってゆくのです。
 第3楽章、レチタティーヴォ・ファンタジア、モデラート。これはまさに幻想世界の言葉のない物語です。ピアノとヴァイオリンは交互にひとりで思いを打ち明けます。その嘆き。そのため息。さまよう心。諦める寂しさ。これほど悲しいことはない、と訴えるような音楽は言葉より心に迫ります。でも心からの話し合いでお互いは慰められ - そこへ一条の光が差し込み - 傷ついた心は徐々に癒される。
そしてフィナーレ、第4楽章、アレグレット・ポコ・モッソ。この甘美な、愛の喜びの歌に溢れた素敵なカノンに、ほっとため息をつくのは私たちだけでしょうか。今までのお話を思い出すとしても、すべては許され、「過ぎ去った」感じです。そう、私たちは「今」が大事!「今」を思いっきり存分に生き、その喜びを全身で感じて感謝の念に満たされる - そんな言葉が私の気持ちの、率直な表現です。ピアノとヴァイオリンは心をひとつにし、喜びに溢れ、音楽の幸せを讃美します。
 勇気と希望、今日と明日に生きる心のエネルギーを、私たちはこの曲からもらいます。
 
 今はこの世にいない大作曲家たち。でも、その音楽を演奏することで、彼らの魂は、時空を超えて今の現代に蘇えります。そしてその作品は、私たちをより幸せにするために、働きかけてくれます。なんと素晴らしい贈りものでしょう!
 ありがとう、モーツァルト、ショパン、
そしてパガニーニ、フランク、ありがとう!            
 そして、本日お越しくださいました皆々様方に、聴いていただけましたことを心から感謝いたします。                                前田朋子
                                梅澤美穂子