新型コロナウイルスの感染拡大により、外出自粛が直撃している外食業界。ただ、一口に「コロナ禍」と言っても、影響度合いは業態によってさまざまだ。運営の仕方も従来とは違う対応を見せている。

4月27日、日本フードサービス協会が発表した3月の外食産業の売り上げは、前年同月比で17.3%減と強烈な落ち込みを記録。東日本大震災があった2011年3月の10.3%減をも上回った。パブ・ビアホールは53.5%減、居酒屋は41.4%減と、前年同月比でほぼ半減で、ファミリーレストランも21.2%減少した。それと対照的に、ファストフードだけは6.9%減と1桁の落ち込みにとどまり、底堅さを見せた。

いくら人々が外出を控えても、1日3回ある食事への需要が消えたわけではない。そこで浮かび上がったのは、内食や中食を取り込んだ「テイクアウト」(持ち帰り)需要だ。以前からテイクアウトの利用が定着していた外食チェーンは、「密集を避けて家で食べたい」という顧客のニーズを捉えて健闘している。

吉野家は6割、モスバーガーは8割が持ち帰り

たとえば牛丼チェーンの吉野家ホールディングス。これまでもテイクアウトの売り上げが3割近くを占めていたが、小中学校が一斉休校になったことを受け、食事サポートとして、牛丼(並盛)をテイクアウト限定で80円引きにするなどの施策を打った。3月にはテイクアウト比率が約5割にも上昇、足元では6割を超えている状況だという。

ハンバーガーチェーンのモスフードサービスは、以前からテイクアウト比率が60%程度と販売の中心だったが、直近では80%以上がテイクアウトによる売り上げになっているという。日本マクドナルドホールディングスにいたっては、約2900の全店舗で店内客席の利用を停止し、テイクアウト、デリバリー、ドライブスルーのみの営業に舵を切った。

吉野家、モスバーガー、マクドナルドは、それぞれ3月の既存店売上高が1.8%減、0.9%増、0.1%減と前年同月比で横ばいを保った。続く4月も大きな売り上げ減少は避けられそうだ。イートイン(店内飲食)の落ち込みをテイクアウトの急伸で補う構図である。

中でも車に乗ったまま買えるドライブスルーの利用者が各チェーンで急増している。車によって空間が隔てられるため、ほかの利用客との接触を避けられることが好感されているようだ。「地方の店舗では車社会のためドライブスルーが標準装備されている。1店舗あたりの売り上げが前年同月比でむしろ伸びている」(あるチェーンの役員)という状況だ。

だだし、ドライブスルーの利用者が急増すると、車の列が道路にまで伸びてしまい、道路によっては近隣の住民やほかの車の邪魔になりかねない。各社ともドライブスルーの絶好調を手放しでは喜べない。

そのためこうした大手チェーンでは、事前にネット注文できる仕組みを周知し、利用を促している。商品の比較・検討や注文、あるいは決済まで事前に済ませてもらうことで、店頭でのオペレーションを軽減する。顧客にとっては待ち時間が少なくなり、接触のリスクを軽減することができる。

一方で、居酒屋をはじめレジャー的な使われ方をするチェーンや、商品に加え居心地やコミュニケーションなどの総合的な接客を売りにしていた店舗は、感染防止のために多くが休業に踏み切った。同じ外食でもあまりテイクアウトには向かない業態かもしれない。

串カツ田中は一部店舗で時短営業する一方、テイクアウトにも注力している(記者撮影)

居酒屋では、「塚田農場」などを運営するエー・ピーカンパニーがいち早く、4月2日から一斉休業に踏み切ったのを皮切りに、ほとんどのチェーンが緊急事態宣言中の休業を決断。食事としての需要が一定程度ある串カツ田中ホールディングスなどは、一部の店舗で時短営業しているものの、大幅な売り上げの落ち込みは避けられない。

拡大中の焼き肉チェーン「焼肉きんぐ」を運営する物語コーポレーションも4月7日以降、国内の直営全店舗を一斉休業した。焼肉きんぐは2月2日にTV番組で取り上げられ、2月については既存店客数が前年同月比で3割も増える好調ぶりだったが、コロナに水を差された格好だ。

原材料費3割、人件費3割、家賃が1割

カフェチェーンでも休業や時短営業が相次ぐ。スターバックス コーヒー ジャパンは「特定警戒都道府県」の13都道府県で全店舗を休業し、それ以外の地域でもテイクアウトのみで19時までの営業、と踏み込んだ対応を取った。「毎日ルーティンとしてコーヒーを飲む顧客もいたが、従業員の安全を第一に考えた」(スターバックス)。

もちろん業界としても、ただ手をこまねいているわけではない。苦境にあえぐ飲食店の経営者が結集して、政府に対し、コスト負担の重い家賃の減免や猶予を求める動きが出ている。

外出自粛が本格化した3月31日には、大阪の三つ星レストラン「Hajime」でオーナーシェフを務める米田肇氏を中心に10人の料理人が集まり、自民党の岸田文雄政調会長のもとを訪問。政府の外出自粛要請によって売り上げが激減したことを受け、8万筆近くの署名を持って、家賃などの固定費の補助を求める陳情を行った。

緊急事態宣言の発令後に事態が深刻化した4月21日には、飲食店経営者らの有志の集まりである「外食産業の声」が記者会見を開いた。タリーズコーヒージャパンの創業者で元参議院議員の松田公太氏が中心となり、不動産オーナーが賃料交渉に応じることの義務化や政府系金融機関による家賃の立て替えなどを求めた、「家賃支払いモラトリアム法」を提案している。

一般的に、飲食店の経営では売り上げに対して、おおよそ原材料費が3割、人件費が3割、家賃が1割だ(店によってはもう少し大きい)。さらに、広告宣伝費や水道光熱費などの諸経費を差し引くと、売り上げの5%ほどしか利益が残らない。

現在のように休業してしまった場合、原材料費をはじめ変動費はストップできる。人件費も政府の雇用調整助成金によって大半はカバーできる。しかし、家賃は休業しても発生し続けるため、飲食店の経営を大きく圧迫する要因になっている。

このままでは多くの飲食店が倒産しかねず、延期された2021年の東京五輪を迎えてインバウンド需要が回復したとき、「飲食店が足りない」という事態さえ起こりうる。不動産オーナーや政府の財源にも、苦しい事情があるとはいえ、家賃について何らかの支援策を講じる必要がある。

タリーズコーヒージャパン創業者の松田公太氏は外食産業救済のため「家賃支払いモラトリアム法」を提案した(記者撮影)

外食チェーンの中には現在も比較的堅調なのに、こうした同業者の苦悩を見るにつけ、「うちが好調とあまり書いてほしくない」と漏らすところもある。「コロナに乗じて儲けている」と見られるのを恐れているからだ。

とはいえ、テイクアウトが支持されて売り上げを保っている飲食店は、儲けだけでなく、営業を続けること自体が社会的使命でもある。外食産業は国民の飲食を提供するインフラとして欠かせない。

食を提供するインフラとして認められるべき

2015年の国勢調査では、単身世帯の割合が34.6%となり、2005年から約5ポイント上昇した。近年は晩婚化などの影響によって、一人暮らしの世帯が増えている実態もある。

単身の場合、スーパーなどで食材を購入して1人分の食事を作るのは時間や費用の面で効率が悪く、外食にかける支出が相対的に多い。総務省の家計調査によると、2019年の年間支出金額に対する外食代の割合は、2人以上の世帯の5.0%に比較して、単身世帯が10.4%と2倍以上もの開きがある。実額で見ても、2人以上の世帯の外食代では年17.6万円なのに比べ、単身世帯は22.8万円と差が大きい。

営業を続けることに対し、一部では批判の声もあるかもしれないが、「食を提供するインフラ」としての役割は認められるべきだ。その中で、事前ネット注文など感染防止に資する施策を講じたうえ、利用を促進していけば十分成り立つのではないか。

5月連休明けから始まった、緊急事態宣言下の”新しい生活様式”。かつてない逆境に立たされる外食業界だが、単身世帯の増加や将来的なインバウンド需要の増加といった、長期トレンドが大きく変化したわけではない。この未曾有の危機で生き残った飲食店こそ、一回り経営体質を強化していることは間違いないだろう。