8回2アウト2塁で、その舞台は始まりました。
「横浜ベイスターズ、選手の交代をお知らせ致します。ピッチャー、桑原謙太朗に代わりまして・・・」
一瞬の静寂。
・・・
皆、その瞬間を、待ちわびていました。
割れんばかりの歓声の中、背番号20は幾度となく乗ったリリーフカーで登場します。
多くのファンが「20」を掲げる中、木塚敦志は入念に身体をほぐす。準備を万端にして向かうのは、慣れ親しんだ横浜スタジアムの最後のマウンド。
もう、写真を存分に貼らせていただきます(手抜きっぽいですが・・・)。
思いっきりのワインドアップ!木塚にクイックは、似合いません。
むしろ、「舞い」と言うに相応しい!
投球練習からファンを魅了する稀有な投手、木塚敦志。本当にその引退が惜しいものです。
羽ばたく!
いつものように気合い注入、これが木塚の儀式です。いよいよ最後となる木塚ワールドは、千秋楽の幕を開けます。
迎えるのは、阪神の強打者・新井貴浩。相手に不足はありません。
初球、捕手の武山真吾とのサイン交換はいつものように大きくかがみます。ただこの日は、木塚の投げたい球を投げればいい、そう思いました。
低めに、ストライクをまずは決めます。そして息つく間もなく、もう2球目に入る木塚。
・・・
やはり、新井でした。打球は大きくセンター・松本啓二朗の頭上を越すタイムリー・・・
「空気読めよ」とは言えません。阪神とて、CS本拠地開催がかかる大事な試合です。真剣勝負において勝ったのは、新井という事でしょう。
木塚の最終登板は、2球で終わりました。最後も小走りでマウンドを後にし、ベンチの労(ねぎら)いの輪に戻ります。
ありがとう、木塚。最後までその姿を焼き付けてくれて。
◇◆◇
試合後に木塚引退セレモニーは開かれる事になっていたこの日の横浜スタジアム。
その肝心の試合は「プロ野球ニュース」で土橋正幸さんが、「先に言っちゃうけど阪神勝ったんですけどねぇ~」と言っちゃったほどのモノになっちゃったのですが、カンタンに触れましょう(もちろん「木塚引退セレモニー」の様子は最後に触れますので、しばしお待ち下さい(笑))。
この日も仕事帰りに寄った横浜スタジアム。順位が確定するも「身売り騒動」を心配したか、「最後くらいは見てやろう」という気持ちか・・・満員。そしてもちろんレフトスタンド・・・さすが阪神戦です!こちらもぎっしり満員。。。(ただ観衆全体は2万人弱と、内野の入りはイマイチだったようです)。
横浜と言えば、ロッテOBがいっぱい在籍するロッテの「兄弟球団」的なところですが・・・今のベイ一軍には誰もおらず・・・が、
こっちにいました(笑)。今や阪神のエース格となってしまった久保康友!!この日も町田ロッテ到着の5回まで1安打無失点の素晴らしい投球でした。久保・・・交流戦の「こんなの」
(5月25日甲子園レポ)や「あんなの」
(6月12日マリンレポ)を思い出すまでもなくロッテは見事な恩返しを食らっていました。
本当に、いいピッチャーになりましたわ。
3番は「200ポナー」マット・マートン。平野とともに打率は.350を超え、以前のエントリーで紹介した.360弱の青木宣親(ヤクルト)
を猛追して「首位打者」争いをしている怖いバッターです。またマートンに関してはイチローの記録を破ってなおも積み重ねる安打は213本・・・「最多安打」に当確ランプをもつけています。
そしてこの人、クレイグ・ブラゼル。最近は不振に苦しむもここまでの本塁打47本。こちらも48本塁打のアレックス・ラミレス(讀賣)
を追います。
「敵状視察」の観点から言えば、讀賣以上に恐ろしい阪神、という印象でした。
そんな阪神打線に挑むこのこの日のベイスターズ先発は・・・
加賀繁 。以前のエントリーで紹介したように好投しながらも援護に恵まれずに敗戦投手となってしまう加賀。5月30日の千葉マリンスタジアム ではロッテ打線相手に8回無失点、渡辺俊介と投げ合いましたがこの日もベイ打線が俊介を打てずに無援にて降板。チームは最後、山口俊が里崎智也にサヨナラホームランを被弾して敗戦を喫したり。。。
そして先日は珍しく援護をもらうもそんな日に限って炎上をやらかしてしまい結局敗戦、というゲームもありました。
いろいろ経験したルーキーイヤーは、苦かったかもしれませんが今後の成長の糧となることでしょう。加賀で連想するのは、「黒い霧事件」後に主力がこぞって抜けて弱体化した西鉄ライオンズにおいて入団間もないにも関わらず投げ続け、18勝25敗という「パ・リーグ最多敗戦記録」を持つ東尾修 。東尾は「あの経験があったから、あそこまでやれた」と後年語り、今や娘夫婦と洗剤のCMに出るまでの「往年の名投手」となりました(←いらんね、この記述)。
加賀の持ち味はやはりこのサイドスロー。くしくもこの日引退試合を行った木塚のそれよりかは地味ですが、この日を限りにしてグラウンドから去る偉大な先輩のファイティングスピリットは、是非とも受け継いでいただきたいものです。
試合は5回、やはり無援状態の加賀が掴まり始めてしまいます。連打を浴び、3失点。しかし加賀、この登板で6回を投げ、見事規定投球回数に到達しております。ベイスターズのルーキーでは、川村丈夫以来の快挙との事です。背番号「16」の、勲章かもしれません。
試合は以後、こんな光景ばかり見せられます。阪神久保の前にランナーすらなかなか出せず、凡打の山。終盤に関しては早打ちが目立ち、気のない三振が目立ち・・・ファンにとっては憤りとストレスばかりが積もる展開。3日の神宮において藤田一也が放ったタイムリー以来、延々と続くゼロ行進は、止まる事を知りません。
この日も「5番一塁」でスタメンに起用された筒香嘉智も、依然として結果を出せません。
しかし8回、久保からライトポールに惜しくもファウルとなる豪快な飛球を放り込みます。「プロ野球ニュース」で斉藤明雄さんが「大器の未完」と言っていましたが、まさに今後に大きな期待を持たせてくれる「未完の大器」です。斉藤さん、訂正しておきます(笑)。
久保康友、意外でしたが今季初の完封勝利!横浜95敗目は、23イニング連続無得点のオマケつきの連続シャットアウト負け。
勝:久保(14勝5敗0S)
敗:加賀(3勝12敗0S)
う~ん・・・そりゃ島田誠コーチも責任感じちゃいます。しかし久保が素晴らしく、先にリンク貼ったマリンのゲームの時点で4敗ですから・・・あれから1個しか負けていない事になります(合ってるのかなぁ・・・)。
六甲おろし轟くレフトスタンド。阪神は今日の横浜戦に、「2位」を懸けて臨む事になりました。
◇◆◇
この日引導を渡した形となった新井(右から6人目)らが見守る中・・・
セレモニーは、始まります。木塚敦志、11年の軌跡。
木塚は1999年、ドラフト2位で指名されて横浜ベイスターズに入団。1998年の優勝時にクローザーだった佐々木主浩(かづひろ)のメジャー移籍後空いてしまったポジションをいきなり埋め、ルーキーイヤーにいきなりの18セーブ。その後斎藤隆、マーク・クルーンにクローザーの地位を譲るもセットアッパーとして活躍し、最優秀中継ぎのタイトルも獲得します。2005年シーズンには川村丈夫、加藤武治、クルーンとの4人で「クアトロK」を結成し、そう名づけられた救援陣は牛島和彦率いるベイスターズAクラスの原動力となりました。
登場時には総合格闘技「PRIDE」のリングアナであるレニー・ハートさんの独特の巻き舌で・・・
「クァァァァァァートゥロロロロロロロロロ・・・ケーィ!」
(うん、字にするとかなり読みづらいですが)という叫びとともに現れ、スタジアムを沸かせました。しかし長年の酷使が祟って晩年は思うような成績を残せず、本人は限界を感じてマウンドを去る決意を固めました。
町田ロッテは、シーレックスで晩年の木塚を2度見ました。
6月8日、平塚。
この日の木塚はストライク全く入らず、正直言って終焉感というか、寂寥感さえ漂ってしまいました。
しかし6月23日、横須賀。
なおも腐らずに再起を期していた木塚は気合いのピッチングを見せてくれ、ヤクルトの野口祥順を見事に打ちとってくれました。
ただ・・・彼にとって一軍のマウンドは、もう遠いものでした。
◇◆◇
阪神側からは選手会長の鳥谷敬、横浜側からは三浦大輔、そして2人の愛娘から花束を贈呈して木塚は、最後の挨拶に向かいます。
木塚は、ファンへの感謝、そして11年プロでやってきた事に、謙虚に感謝しました。そして、この経験を生かして今後はコーチとしてやっていく事を誓います。くしくも6月23日のシーレ戦(横須賀)レポで「木塚がベイスターズを救う」と書いたのですが、まさかそれがコーチとしてのものになるかもしれないとは思ってもいませんでした。
ただ、信じます。コーチとして、この苦境にあえぐチームを是非とも救っていただきたい!まずは、次世代を担う若い選手の育成に、力を注いで下さい。この日の先発の加賀を初め、やはりこの日リリーフの阿斗里、昨日の先発田中健二朗、その前の神宮の先発の眞下貴之、ほかにも杉原洋、佐藤祥万、松山傑、小杉陽太、藤江均、さらには福田岳洋、安斉雄虎・・・
原石は、豊富です。
なおも止まぬ木塚コール。
そしてCSクリンチ1という情勢に沸くはずの阪神ファンも、何とこの時には木塚コール!敵味方関係なくこの日の横浜にいたファンは、このファイターを讃え、労います。
ここでスタンドは色鮮やかな紙テープで功労者を迎えるのですが・・・
ファンを大切にする事を身上とする男らしく、最後は地声で(!)、そのファンに感謝の意を述べ、深々と一礼します。
感謝したいのは・・・こちらの方です。本当にありがとう、そしてお疲れ様。
そして最後は選手の輪に戻って、これまで一緒に戦った者しか分からぬ世界に・・・
ここで終わりませんでした。
何とすかさず木塚はレフトへ!敵チームへの感謝も忘れませんでした。これはなかなか、できる事ではありません。正直感動もしましたし、何よりもここまで残って木塚を送ってくれた阪神ファンにも、感謝の気持ちでいっぱいでした。
これで、木塚敦志の11年間の現役生活は終わりとなります。登板490は全て救援によるもの、35勝25敗24セーブ88ホールド。なおこの日はかつて共に「クアトロK」を結成していた日本ハムの加藤武治投手、そしてついこの前までチームメイトだったロッテの吉見祐治投手もスタンドに駆けつけて、木塚の最後に立ち会ったとの事です。
また、木塚が学生時代を過ごした明治大学においてバッテリーを組んでいた男もおり、自身のブログで木塚の第二の人生を応援する旨、記述してくれていました。
その男は、的場直樹 。来ていたんですね!
ロッテCS出場の立役者でもある的場直樹、そして吉見祐治は、ここで木塚のファイティングスピリットを目に焼き付けてくれたと思います。是非ともCSを勝ち残って、木塚にいい報告をしてもらいたいものです。
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木塚敦志投手、11年間本当にお疲れ様でした。あなたの気合い漲る投球、好きでした。
「落ち着きがない」と言ったのは、許してネ(笑)。