出張の帰り道、交通量の途切れない国道で、車はもう進めないと告げてきた。
減速する余地はほとんどなく、私は反射的にハンドルを切り、
目の前に現れた紳士服チェーン店の駐車場へ滑り込んだ。
そこに入らなければならないほど、道路は忙しく、容赦がなかった。
エンジンを止めても、外の世界は止まらない。
車の流れは絶えず、風圧だけがこちらに届く。
同僚を隣に乗せたまま、ハザードランプを点け、
私は自分が今どこに取り残されているのかを、何度も確かめた。
ロードサービスとのやり取りは、すべてショートメールだった。
画面に現れる定型文は正確で、淡々としていて、
そこには人の気配がなかった。
不安は、文字と文字の隙間に静かに居座った。
怖かった。
ただそれだけだった。
しかも私は一人ではなく、同僚を乗せていた。
守るべき存在があるという事実が、恐怖を重くした。
そのとき電話が鳴った。
「今から向かいます」
レッカー車の運転手の声だった。
声には温度があり、距離があり、確かな方向があった。
それだけで、世界は少し形を取り戻した。
続いて、近くに住む友人に電話をかけた。
夕方、主婦には一番慌ただしい時間帯だったはずなのに、
彼女は事情を聞くと、すぐに来ると言った。
ほどなく駐車場に現れたその姿は、
急いできたことが一目でわかるほどだった。
車に乗り込んだ瞬間、
張り詰めていたものが、
音もなくほどけていった。
職場まで送ってもらい、
すべてが終わったあとで、
私はようやく、
自分が泣きそうだったことに気づいた。
車は止まった。
連絡は文字だけだった。
けれど最後に届いたのは、
忙しい時間を割いて駆けつけてくれた人と、
確かな人の声だった。
私は、人に恵まれている。
その事実だけが、静かに残った。
