コンラート ローレンツ著「ソロモンの指輪ー動物行動学入門」を図書館で借りて読んでみました。

 

生後まもないハイイロガンの雌のヒナは、こちらをじっとみつめていた。私のふと洩らした言葉に挨拶のひと鳴きを返した瞬間から、彼女は人間の私を母親と認め、よちよち歩きでどこへでもついてくるようになった…“刷り込み”などの理論で著名なノーベル賞受賞の動物行動学者ローレンツが、けものや鳥、魚たちの生態をユーモアとシンパシーあふれる筆致で描いた、永遠の名作。

 

読もうと思ったきっかけはなんだったかな・・・春ごろ、漫画「動物のお医者さん」がキャンペーンで全巻無料で読めて、その時に「ソロモンの指輪を持っていたら直接動物に今の心境を聞けたのに」といった内容が書かれてて、それで「ソロモンの指輪って?」と思い検索したのがきっかけだったかな。

 

ちなみに「ソロモンの指輪」とは、旧約聖書に出てくる聖典から。ソロモン王が大天使ミカエルから授かった力を持つ指輪で、動物の言葉がわかり、話ができたというもの。

 

著者のローレンツさんは動物への理解と、動物と話ができるソロモンの指輪をかけて、引き合いにだしたのでしょう。

ただ本の中では「私は、自分のよく知っている動物となら、魔法の指環などなくても話ができる。」と書かれています。

 

読んでみると、ちょうど第一次世界大戦頃の時代で、動物に対する深い愛と洞察力が随所に出てきて、動物好きで動物愛を渇望している私としてはたまらない一冊となりました。

 

どうもローレンツさんは家の中で野鳥や犬など飼って、四六時中動物に囲まれていたようです。

たぶん「動物愛>生活・見た目」だったんじゃないでしょうか。私にはとても真似できないことも随所に出てきて、う〜ん、すごいな〜動物と触れ合う、知るってこういうことなんか〜と思いました。

 

その、ただ可愛いとか、癒されるとかではなく、ペットではなく研究対象として一緒に暮らして繊細に観察し、詳細に洞察する。きっと並々ならぬ労力や忍耐があったのではと思わずにはいられません。

 

私が好きな章はコクマルガラスが登場する「5.永遠に変わらぬ友」。

はじめは幼鳥ののどにおいしい餌をつめこんでやりたいという衝動にかられて飼ったというコクマルガラス。

 

それが大人になっても、何年も飼い続けることになるとは当時予想しておらず・・・長年にわたり繰り広げられる愛着や社会的行動は時に愛しく、時におかしく、読んでいるこちらもホッコリ。

 

例えば著者に恋したコクマルガラスがしきりに小さな巣穴に入り込ませようとして何時間でも辛抱強く誘ったり、餌をしつこく著者に食べさせようとする行動は、微笑ましく思う反面一緒に暮らすって本当に大変だな〜と思いました。

 

また、文章がやわらかく、美しく、読んでいると幸せな気持ちになります。

5章の最後にとても好きな一説がありますので、ご紹介しますね。

 

どんなにか深く私は自分の幸せな運命に感謝することであろう、もし何代ものちの人間たちがやはり歩くであろう道を、私がった一つでも見出すことができたならば・・・。

たとえいつの日かだれかが「高みにいたる」のを助けられる「上昇気流」を見出すことはできなくとも。

 

「高みにいたる」や「上昇気流」は出てくる鳥のお話にひっかけてますので、詳しくはぜひ本文で!

 

登場する動物は日本にはあまり聞き慣れない名前が多く、googleやyoutubeで検索し、どういう動物なのか確認しながら読みました。すぐに検索できるのは今の時代の特権ですね。

 

自粛で家にいる時間が多くなり、家にいても鳥の鳴き声が聞こえることに気がつきました。

それまではフワッと「何か鳥が鳴いてるな〜」ぐらいにしか思っていなかったのが、何の鳥が鳴いてるのか、どういう鳴き声なのか、調べたり、声の主の方を見るようになりました。

 

近所を歩いて見ると、近くに川があるというのもありますが、意外にも野鳥は多く、遠くに行かなくても東京にもけっこういるもんなんですね。

 

最近では生えてる雑草にも関心を寄せるようになりました。青々とたくましく茂る緑を見ていると心が落ち着きます。

 

家にいる時は夕方頃、夫と近所を散歩をしています。本来は運動不足を解消するため、夕食後に歩いていたのですが、夫さんが「明るいうちに歩きたい」との要望があり、夕方歩くようになりました。

 

日の沈まないうちに川沿いを歩いてると、時々魚が何度も飛び跳ねたり、鳥が寝床に向かって遠くの空を飛んでいたり、沈む夕焼けの空を見ていると、ああ遠くに行かなくてもこんなに癒される景色が身近にあるんだな〜と気付きました。

その散歩ルートは主要な道路から外れてるため、普段なら通らない道です。こういう気付きもあるんですね。今では一番のお気に入りルートとなりました。

 

こんなコロナ禍の時だからこそ、遠くに移動して、今ないものを補うのではなく、あえて今の場所にとどまり、観察し内省する。自分の体を観察するのと同じように、生息している動植物を見ることによって生きるエネルギーを丁寧に感じる。そういうことが今自分にとって大事な事なんじゃないかなと思います。

 

ローレンスさんは戦前生まれでソ連軍の捕虜になったこともあるそうです。きっと時代は決して明るくなかったと想像します。それでもこの本にはそういった暗い背景は一切出てこず、動物愛に満ち、幸せな気持ちになりました。

 

少し退屈な部分や興味がわかなかった部分もありますが(笑)元は10代向けに書かれた本だそうですから、誰でも読みやすいと思います。

私も10代の頃にこの本に出会っていれば・・・いやいやこの年でも十分楽しませてもらいました。

動物が好きな方にはぜひ一読をお勧めします。

 

ちなみに、図書館のパソコンで「ソロモンの指輪」と検索し、本の場所に向かったところ、全く違う本に行き着きました。(笑)