生田春月(いくたしゅんげつ)の「象徴の烏賊(しょうちょうのいか)」を朗読しました。
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🟣生田 春月(いくた しゅんげつ、1892年3月12日 - 1930年5月19日)は、日本の詩人。ハインリヒ・ハイネなど、外国文学の翻訳も多い。妻生田花世は平塚らいてう主宰の「青鞜」同人作家。本名は清平。
🟣経歴
明治25年(1892年)3月12日、鳥取県西伯郡米子町(現米子市)に生まれる。
家業は酒造業。明治36年(1903年)米子角盤高等小学校中退。
1908年、17歳の時に上京して生田長江の書生となり、文学とドイツ語を学ぶ。大正6年(1917年)に最初の詩集『霊魂の秋』を刊行。
🟣昭和5年(1930年)5月19日、大阪発、別府行きの船菫丸に乗船中、瀬戸内海播磨灘で投身自殺を遂げた。享年38。戒名は澹雲院孤峰春月居士。
「象徴の烏賊」
或る肉体は、インキによつて充たされてゐる。
傷つけても、傷つけても、常にインキを流す。
二十年、インキに浸つた魂の貧困!
或る魂は、自らインキにすぎぬことを誇る。
自分の存在を隠蔽せんがために
象徴の烏賊は、好んでインキを射出する。
或る蛇は、常に毒液を蓄へてゐる。
至大の恐怖に駆られると、蛇は噛みつく。
致命の毒を対象に注入しながら
自らまた力尽きて斃れる旱魃の河!
或る蛇の技術は、自己防衛とその喪失、
夏夕の花火、一瞬の竜と天上する。
或る貝は、海底に幻怪な宮殿を築く。
あらゆる苦悩は重く、不幸は塩辛く、
利刃に刺された傷口は甘く涙を流す。
或る真珠の涙は、清雅な復讐である。
奸黠な商売の金庫に光空しく死せども、
美しい夫人の手に彼の涙は輝く。
或る植物は、常にじめじめした湿地に生え、
その身をあまりに夥多なる液汁に包む。
深夜、或る暗い空洞から空洞へ注ぎこまれ、
その畸形なる尻尾を振つて游泳する
或る菌はしばしば死と復讐の神である。
漠雲の中哄笑する、目に見えぬものは神である。
底本:「日本の詩歌 26 近代詩集」中央公論社
1970(昭和45)年4月15日初版発行
1979(昭和54)年11月20日新訂版発行
底本の親本:「象徴の烏賊」第一書房
1930(昭和5)年6月
入力:hitsuji
校正:The Creative CAT