オーストラリア旅行記ゴールドコースト冬11 | ともみと髭マンとガガ

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28、迷子のブリスベン

    私はかなり、泣きそうになっていた。

    バーリーヘッズからバスでバーシティレイクス駅へ行き、そこから電車に乗りかえたところまでは順調だった。

    事前にネットで調べ、経路を細かく書き写したメモを握りしめた私は、降りる駅を間違えないよう車内アナウンスに耳を澄ませていた。

   はずなのだが、ここだ!と降り立った駅の改札口で立往生している。

   これから見学しに行くシェアハウスへ行くには、バス停を見つけなければならない。

    駅を出ると、バス停はこちら→のような親切な看板も見当たらなかった。

    勇気を出して、誰かに道を尋ねなければならないだろう。

    自分に課した課題が思い出された。

 それは、英語環境に身をおくこと。




 イングリッシュスクール卒業以降、私はほとんど英会話をせずに過ごしてきた。

 もう英語なんていいや、なんて気持ちもどこかにあった。

 しかし本当にこのままでいいのだろうか。

 一年間も外国で暮らしたにもかかわらず、その土地の言葉を知らずに帰国するなんてことになっても自分は後悔しないだろうか。

 そんな疑問がじわじわと心に広がっていた。

 やはり日本人以外の友人も作りたい。

 ジョンハウスでだらけていては、出会いは無い。

 引っ越し先にブリスベンを選び、オンラインで部屋探しをする時、日本人オーナーでは無いところを検索した。

 地理がよく分からないので中心街に近いほうがいいと思い、条件をブリスベンシティ近辺に絞った。

 そのなかで目をひいたのが、アナリーのルームシェアであった。

 オーナーの名は、ブレット。


 “タイワニーズのガールフレンドと暮らすオージーです。フレンドリーなシェア生活はいかがですか?ときどき英会話も教えます”


 というような内容が英文で載せてあった。

 他にも気になる物件をチェックしつつ、まずは手始めにとブレット宛てにメールを送っておいた。

 返事は数日後に届いた。

 都合のいい日時を指定してもらい、近くのバス停の名前を教えてもらった。





{9677DDFA-78DF-4964-BCA9-2608FA1C0C7D}

バーシティレイクス駅

{9FB4BE09-95CF-4A9C-A501-B5CB72374A09}




 しかし、である。

    降りる駅を間違えてしまったのかもしれない。

    ブレットとはアナリージャンクションというバス停で落ち合う約束をしていて、約束の時間まであと数分しかない。

 焦る。

 なにより私は地図を回しながら読むほどの方向音痴である。

 道を尋ねる勇気を出しきれないまま、とにかく大勢の人の流れに乗ろうと歩きだした。

 しばらく歩くと、念願のバス停を発見した。

    ほどなくして到着したバスの運転手に住所を見せてこう尋ねた。

 "I want to go to Annerley"

 東南アジア系の運転手は首を横にふり、

 “このバスじゃないよ”

 という。

 "How...I...Which Bus!?"

 私はどうすれば、どのバスに乗ればいいのか、と言いたかった。

 それを汲み取ったバスドライバーはあれこれ説明をはじめたのだが、地名すら私には理解できない。

 ただ、このバス停からアナリー行きは一本も出ていないことだけは理解できた。

 今にもべそをかきそうな私を見て、困りはてたバスドライバーはこういった。

 "Are you Japanese?"

  私が "YES"というと、バスの運転手はこうつづけた。

 “すぐそこに大学があるんだ、たぶん日本人もいるからそこで聞けばいいさ”

 まさか、こうもあっさりと匙を投げられるとは。

 私はバスに背を向けるほかなかった。

 しかし、にぎやかな声のするほうへ顔を向けてみると確かに学生たちが大勢歩いている。

 その中に日本人らしき女性を見つけた。

 すぐさま駆け寄り、背後から声をかける。

 「すいません!」

 眼鏡をかけた黒髪の学生はハッと振り返り、私の顔をみて優しく微笑んでくれた。

 ほっとして、彼女にこう尋ねた。

 「アナリージャンクションへ行くにはどうすればいいか知りませんか?」

 そういい終えた私に、彼女はこう言った。

 "Sorry, I can't speak Japanese"
 (ごめんなさい、わたし日本語話せないの)


 硬直してしまった。

 よく確認もせず一方的に日本語で話しかけてしまった恥ずかしさと、申し訳なさ。

 私が "SORRY"とあやまると、彼女は笑顔のままこういった。

 “私こそこんな顔して日本語が分からなくてごめんなさいね、ママは日本人だけど私は中国で生まれ育ったから…” と。


 私は改めて、つたない英語でもういちど尋ねる。

 紙切れにメモした住所を見せると彼女は大きくうなずき、乗り換えのバス停までは同じ方向だからと一緒にバスへ乗ってくれることになった。

 そのバスに揺られている途中、携帯にショートメールが届いた。


 ―今どこにいる?あとどれくらいで到着する?ー


 ブレットからだった。

    時刻を確認すると、約束の時間などとうに過ぎていた。

 どこにいるかと問われても、それはこちらが聞きたい。

 携帯を見つめたまま返答に困り固まる私を見て、隣に座っていた彼女がサッと私の手から携帯を取ると、代わりに返信してくれた。

 おかげで、自分がメーターヒルというバス停へ向かっていることがわかった。

 やがてバスは近代的な建物の横で停車し、彼女に促されるまま私も降車した。




 ビルに挟まれたその広い二車線の道路はバス専用で、上下線ともに次々とバスが滑りこんでくる。

 バスを待つ場所はコンクリートの床に金属製のベンチがならび、頭上にぶらさがる電光掲示板にはバス番号と時刻が数段表示されていた。

 到着時刻順にそれらを下から上へ押しあげ、表示されては消えてゆく。

 自分が乗るべきバスを見つけようと、挙動不審にあたりを見渡した。

 バスの停車時間も短く、これではどのバスドライバーに尋ねようかと悩むうちに出発してしまう。

 まさに目まぐるしいバス停であった。

 そのとき、あの学生が私の袖をついと引いた。

 ここから私とは違う方向へ行くはずなのに、彼女はこの哀れな田舎者を見捨てなかったのである。

 アナリージャンクションに停車するバス番号を調べてくれた上に、一緒にそのバスを待ってくれるという。

 私が立っていたのは上り線(シティ方面)乗り場で、アナリーへゆくには下り線のほうへまわる必要があった。

 ふり向けば階段とエレベータがあり、その先、空中通路で反対側へ渡るしくみになっていた。

 階段をおりるとすぐに彼女は掲示板を指差し、

 “ 125 Garden City行き がもうすぐ来るからね、それに乗るんだよ”

 と、おしえてくれた。

 何台かたてつづけに到着したバスの後方に、125の数字が見えたので慌てて片手を高くあげる。

 乗ります!と、しっかりアピールしなければバスは停まってくれないのだ。

 急停車するバスを追いかけるようにして乗り込む。

 私がゴーカードをタッチしている間に、彼女は乗り口までくるとバスドライバーに私の行き先を告げた。

 “あのひとをアナリージャンクションで降ろしてあげてね”

 そうバスドライバーに念をおし、

 "See you"

 といって私に手をふった。

 私はひたすらに、 "Thank you"を繰り返すことしかできなかった。

 ドライバーがアクセルを踏みこむと同時に扉は閉まり、私はよろめきながら空席を探した。

つづく



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