「火宅の人」の主人公と菅野もと子(小森のおばちゃま)は、
ニューヨークを追われるように発ち、
霧深いロンドンに到着します。
けれど、ロンドンでもホテル探しで苦労することになります。
一雄と菅野もと子は結婚していないカップルであるため、
ホテルのフロントにパスポートを提出すると、
同室に宿泊することを阻止されます。
サヴォイホテルに限らず、この時代のホテルの建前がそうなのでしょう。
「大変失礼でございますが、お連れ様はお泊り頂くわけにはまいりませんけれど・・・・・・」
丁重に小森のおばちゃまの同室を断るホテル側、
一雄の不愉快そうな顔が目に浮かびますね。
「どうしてだ? 彼女は私の秘書だ。今晩、急ぎの原稿がある。手伝ってもらわないと・・・・・・」
「こちらのお部屋には、そのような用意がしてございませんから・・・・・・」
「そんなら、ほかにそのような用意がしてある部屋はないの?」
「さようでございますね。事務室と使用人の控えの間のついたお部屋ならございます・・・・・・」
結局一雄と小森のおばちゃまはその部屋に一週間滞在することになります。
一泊邦貨で2万円の部屋です。
1959年当時の2万円です。
新卒サラリーマンの初任給の倍近いのではないでしょうか。
ザ・サヴォイのスイートルームですね。
もし私が4人の子供達と留守を守る妻の立場でこれを知ったら、
頭が爆発しますね。
一雄には家をしっかり守る堅実な妻と、
遊び相手として楽しい菅野もと子と矢島恵子がいるのです。
世間はこれを許していた、そういう時代でもあったのでしょう。