大伯母が作ってくれた
綿入り半纏
黒地に朱色の花模様



祖父の姉の大伯母は
明治生まれの厳しい人だった



柔和な祖母と対照的な大伯母が
実家に来ると
一週間は泊まっていく


小学校から帰り「ただいま」と
玄関の扉を開けると
いつもと空気が違っている
そんな時はたいがい
正面の茶の間の上座に
大伯母が座っていた

もちろん
祖母にとっては
小姑で大姉さま
両親にとっても伯母さまなので

その一週間は
大伯母中心に回っていく

食事もテレビのチャンネル権も


そして朝から
仁王立ちで
私や兄が玄関掃除や床の雑巾がけするのを
指導する




祖母は嫌な顔ひとつせず
いつもの穏やかな顔で
毎日
大伯母の話を聞き
大伯母の長い白髪をといてきれいな髷に
結い上げていた



だけど
私は子ども心に

なんでお客様なのに
こんなにいばってるんだろう
大好きなおばあちゃんに
髪までとかせて

と思っていた

私にとっては
威厳があって少し怖い存在だった




でも時おり見せる笑顔に
どこか寂しさがあるような気もしていて





中学生の頃
大伯母が我が家に来た時に
車に乗ることがあって
後部座席に乗った大伯母は
身体を支えるのに
隣の私の肩に掴まろうとした

当時 思春期だった私は
大好きな祖母や両親の前で
威張っているように見えていた大伯母に
複雑な思いがあって
顔も見ず
身体をずらした


大伯母も気づいたのかもしれない
私はそのまま大伯母の顔が見れず
顔を背けたまま


その時
心がちくり
とした






数年後
大伯母が
「Mに半纏縫ってあげたから」
と手縫いしてくれた綿入り半纏

少し大人っぽい
黒地に朱色の花模様
素直に嬉しかった
「ありがとうこざいます」
私が羽織った姿を見て
いつも厳しい大伯母が微笑んだ

優しい笑顔だった


車での自分の姿がよぎって
また心が
ちくりとした





大伯母も歳をとり
我が家に泊まりにくることも少なくなり


明治生まれの女性にしては
大柄な人だったけれど
通夜で会ったその身体は細く小さく
厳しい表情の面影もなくなっていた



帰りに祖母から話を聞いた

大伯母には子どもがおらず
大叔父が亡くなってからは
養子の息子さんやその奥さんとも
折り合いがよくなくて
隠居で一人で暮らしていた
だからうちにくると
みんなよくしてくれるから
嬉しかったんだと思うよ
だから長く泊まっていたんだよ
苦労した人なんだよ


小さい頃
「Mは絵を描くの好きだから」
明治生まれの堅しい人だった大伯母
私のお絵描き用の為に
裏が白い広告を集めておいて
泊まりに来るときに持ってきてくれていたのを
思い出した


冬になり
この綿入り半纏を出すと

大伯母の笑顔と

あの時
なぜ肩を貸してあげなかったんだろうと
いう思いで
やはり
心がちくりとするのです