黄色い電車は陽だまりの中を走る。
台風一過のいいあんばいの昼下がり。
私は息子とお出かけの帰り、疲れからうつらうつらしていた、岐路に着く車内で事件は起こった。
(ん? ガリ臭い!?)
私の心の第一声はそんな感じだったと記憶する。
一瞬で鼻を突く、ガリの酸っぱい匂い・・・
私はそれが真横から発せられていることに気付き、脱兎のごとく横を向いた。
隣に座った息子越しに見えたものは、その横の20代後半くらいの女性が・・・・・
デパ地下らしき袋の中から出した海鮮丼を膝の上で開けている。
今、まさにふたを開け、醤油の小袋を長い爪で開けようとしているシーンだった。
思わず、ガン見。
息子もガン見。
軍艦寿司のように、手巻き寿司のように。
海苔でくるまれているものならその刺激臭は少しは柔和したのかもしれない。
だがしかし、それはまごうことなき海鮮丼だった。
海 鮮 丼 だ っ た 。
オープンエア状態のオン・ザ・刺身。
車両内は一気に酢飯臭に乗っ取られていく。
車内のみんなが発信源を探そうとキョロキョロしだし、私の並びの席を見つけると、ギョッとした顔で誰もがこっちを見た。
(写真は本文と関係ありません)
酢飯&ガリ&刺身の香りは、適した場所で適したTPOでなら最高に食欲中枢を刺激する香りだろう。
でも残念ながら、ここは動く食堂列車でも、学食でもない。
彼氏なのか旦那さんなのか知らないが、女性の連れの男性が海鮮丼のふたを彼女から受け取り、無表情で自分の膝に置いた。
よく見ると女性のバッグも彼が持っている。
ははーん成程。女性上位の関係なのだろう。
・・・だってそうじゃない?
私が彼氏だったら、ふたを持たない。
いくらお腹がすいたからといって、電車内で買った海鮮丼をおもむろに相手が開けば、
「電車で丼を食べるなんて非常識だ。やめろ」と言うし、そんな恋人なら彼女として幻滅。
これからの付き合いも考える。
そして逆に私がそうしたとしても、うちの旦那さんだってそう言うに決まっている。
でも彼は平気な顔でふたを受け取り、注意もせず、隣に座っている。
・・・似たもの同志だね。
だから彼女は、ここで海鮮丼を食べられるのだろう。
匂いは最悪に気になったけど、(変わった人・・・)くらいな印象で私はまた眠りにつこうとした。
そのときだ。
「隣の子ども、お前のこと超見てるんだけど・・・。
寿司がおいしそうで食べたいんじゃない?」という半笑いの彼氏の声が聞こえてきた。
(・・・は?)
続いて丼を食べていた女が「あはは。僕、いる~?」と、あんぐりと見ていた息子に、そう言った。
基本ことなかれ主義です。
私自身がいい加減で常識ないですから。
同じ常識ない人も、目くそ鼻くそ。言える立場ではありません。
でもね、子どもを育てている過程で、今この場面で、私はそのカップルの行動にその会話に笑えなかった。
全然面白くない。
1人なら気にしなかったでしょう。
でもここでこのままの状態だったら、私は息子に何も教えられない。
息子が大きくなり、彼女ができたとする。
そのとき、この行動をよしとする男であったり、よしとする女を彼女にしていたら。
私は間違いなく「バカヤロー!」と猪木のように入魂で叫びたい。
「ちょっといいですか?」
とっても冷静に、でも端的に話しかけた。
「息子はおいしそうであなたを見てたんじゃなくて、電車でどうして丼を食べてるのかなぁと不思議に思って見てたんです。
大人なんだから、公共の車内で海鮮丼を食べることが正しいかどうかよく考えてみてください。
食べてるご本人はわからないかもしれませんが、
車内中がとっても酢飯臭いです。」
見知らぬ他人の行動や言動は、正直どうでもいいです。
だって関係ないんだもの。
笑われようが、何か法を犯して捕まろうが、知らないひとだもの。
でも子どもの前で、子どもを巻き込んではスルーできなかった。
そんな私も海鮮丼女と同じ幼稚な大人なのかもしれません。
息子よ。
電車で海鮮丼を平気で食べる、そんな彼女をいつか作らないでください。
でないとおかーさんは、真っ赤なタオルを肩に垂らしてリングサイドでマイクを持ちます。
おかしなことはおかしいと思う。
単純にそんな大人になってください。

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