■■■■■■  万巻誤用塾・メルマガNo.28-2
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■■  漢検受験から就職も校正も 20081124
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  誤読・誤用は恥ずかしい…キーワードは「誤用だ!御用だ♪」
  面白くオリジナリティゆたかに、イマを生きる話題性も添えて…。

◆今週のお題は「働・労・務・勤…はたらく/つとめる/いたわる(正答篇)」。

〓〓〓〓〓〓〓〓 正解 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

■1■次の[  ]内に漢字を1文字入れてください。

A.はたらけど はたらけど 猶わが生活楽にならざり ぢつと[手]を見る
  啄木の『一握の砂』の「我を愛する歌」

B.[智]に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。
  兎角に人の世は住みにくい。 ... 夏目漱石の『草枕』の冒頭。

C.江戸時代、商家の奉公人は年2回[藪]入りの時だけ実家に帰れたそうな。
  「やぶいり」の語源は、藪の深い故郷に帰るからという説が一般的だが、父を養う為に生家に戻るから「養父(やぶ)入り」という説もある。

D.最近の若い人は[気]働きができない。とか言われているけど… 「きばたらき」「事の成行きに応じて心が働くこと/気の利くこと/気転」
  
E.斎藤一人さん曰く…「働くって、[傍/はた]を楽にするって書くんだよ」
 「傍」とは周りの人/共に働いている人。『変な人が書いた成功法則』から。ほかにも「困ったことは起こらない」「与えないものは奪われる」などの名言もある。


■2■珍答・怪答いりまじってるかも。

A.まず「コトノハ」の珍答集から…
「働かされるのかとばかり」←みっけさん。
「早番の勤務なんじゃない?」←もでなさん。
「寒い中の早起きは努力が要るからだといまだに思っている」←彼方さん

現代口語文なら「務めて」という副詞に短絡しがちですが、『枕草子』の[つとめて]は早朝のこと。古語辞典でも「早朝」とあって語源や転訛などが記されていない。しかし、神谷の考えでは「夙めて」と書いて「つとめて」と読む場合があるように、「つと」の和語から、または「夙」の訓読みから転訛したのでは…と考えています。
類語【夙起/シュクキ】 朝、早く起きること。早起き。
  【夙夜/シュクヤ】 (1)朝早くから夜遅くまで。一日中。あけくれ。
  【夙に】つとに (副)
   (1)以前から。早くから。
    「御高名は~うかがっておりました」「~名高い」
   (2)幼時から。若い時から。
    「~学問に志す」
   (3)朝早く。
    「~行く雁の鳴く音(ね)は/万葉 2137」

B.[労咳/ロウガイ]漢方で肺結核。肺結核の古称。癆がい(やまいだれ+亥)とも書く。絶滅した病気と思われがちな結核だが現在でも、約7万人の罹患者がいるばかりか、年間およそ3万人が新たに発症している。

C.『貧窮問答歌/ヒンキュウ-モンドウカ』
奈良時代初期の歌人・山上憶良。官人という立場にありながら、重税に喘ぐ農民や防人に狩られる夫を見守る妻など社会的な弱者を鋭く観察した歌を多数詠んだ。

D.労使協調を掲げた労組(産経新聞社など)は「御用組合」と呼ばれます。
労働組合とは名ばかりで、本来の機能が低下して会社側の言いなりになってしまうので、「御用組合」「第二人事部」などと言われるものが多くなってしまった。

E.勤労感謝の日は、かつて「新嘗祭(にいなめさい/シンジョウサイ)」でした。1948(昭和23)年公布・施行の祝日法で制定された国民の祝日の一つ。日付は11月23日。「勤労をたっとび、生産を祝い、国民互いに感謝しあう」ことを趣旨としている。



◇―――――――――――◇編集後記3◇――――――――――◇

漱石の抒情あふれる小品に『子規の画』がある。
 これは病床から慣れない絵筆をとって東菊を写生し、自ら讃したのを送られたのにふれて書いた短編である。

…まず書き出しが

 余は子規《しき》の描いた画《え》をたった一枚持っている
……
そして「拙」という言葉で子規の絵を評しながら、彼の詩作に言及し、若くして夭折したその人柄をも懐かしく振り返る…
……
…虚子《きょし》が来てこの幅《ふく》を見た時、正岡の絵は旨いじゃありませんかと云ったことがある。余はその時、だってあれだけの単純な平凡な特色を出すのに、あのくらい時間と労力を費さなければならなかったかと思うと、何だか正岡の頭と手が、いらざる働きを余儀なくされた観があるところに、隠し切れない拙《せつ》が溢《あふ》れていると思うと答えた。馬鹿律義《ばかりちぎ》なものに厭味《いやみ》も利《き》いた風もありようはない。そこに重厚な好所《こうしょ》があるとすれば、子規の画はまさに働きのない愚直ものの旨さである。

つまり余技としてもあまり上手とは言えない子規の絵筆を「働きのない愚直ものの旨さ」という。
この子規の絵を見たいと思って探していたが、あるブログでそれを見つけた。
これからその画像をあげた方にコメントして転載の許しを得ようと思っています。


『子規の画』全文は
http://www.aozora.gr.jp/cards/000148/card795.html


◇―――――――――――◇編集後記4◇――――――――――◇

「労」の四字熟語には

【一労永逸】:一度苦労すれば、その後長くその恩恵を被り、安楽な生活を送ること。「一労」は一度の苦労、少しの苦労。「永」は長くの意。「逸」は安楽・利益の意。
「一ひとたび労ろうして永ながく逸やすんず」と訓読する。出典では「一労久逸」とある。
  出典『文選/モンゼン』

【犬馬之労】:自分が主人や他人のために力を尽くして働くことを謙遜していう。
犬や馬ほどの働きという意から。出典『韓非子かんぴし』五蠹ごと

【疲労困憊】:疲れきってしまうこと。▽「困憊」はすっかり疲れきること。

などがある。瞥見しておきましょう。


【発行者】神谷 雄高(かみや ゆうこう)

日本語教育研究所(第16期)客員研究員
日本漢字能力検定準一級(H12)認定


〔表記ルール〕
・読み方は音読みはカタカナ、訓読みはひらがなで、基本的には丸谷才一『文章讀本』巻末の表記法に準じます。(ただし漢字からの送りは新仮名づかい)
・出典は出来るかぎり明記しますが、「慣用」使用などの場合は岩波『広辞苑4版』旺文社『古語辞典8版』角川『新辞源〈改〉』に準じます。