世界のマエストロ 小澤征爾さん
2002年、小澤征爾さんが29年間音楽監督を任されたボストン交響楽団から
ウィーン歌劇場に移って行く半年間を密着取材させて頂きました。
ベルリン、ウィーン、東京、水戸、松本、ボストン、タングルウッドと
何度も撮影させて頂きましたが、撮影する度に小澤さんの音楽に魅かれ、
人柄に魅かれて行きました。
海外で評価されている日本人は何人もいますが、小澤さんほど
国境を越えて愛されていた人は居なかったと思います。 ウィーンの街を
一緒に歩いていると、あちこちのカフェから「マエストロ!マエストロ!」
と声が掛かり、一緒に写真を撮りたいと言う人が列をなしていたのが
思い出されます。
しかし、小澤さんは無暗に欧米人になろうとはせず、あくまでも世界の中の
日本人を貫いていました。 演奏後は、すぐに浴衣に着替え
ぶら下がりの記者会見を受けていました。「なんで浴衣なんですか?」と
聞かれると「いや、コレが一番汗を吸ってくれるんだよ」と答えていましたが、
あれこそが小澤さんの根底にあった日本人のアイデンティティーだったんだと思います。
そして、その欧米社会に決して迎合しない姿勢こそが尊敬をもって対等に迎えられ
た所以と言えるのでしょう。
(2008年 講談社「オブラ」10月号より)
世界的に有名な方なのに、道行く人に声を掛けられても分け隔てなく
気さくにお話をされていました。 いつも仲良かったご家族の心中は
察するに余りあります。 心よりご冥福をお祈りいたします。