私にとって桜の原風景は、京都屈しの「桜の名所」平野神社の桜です。

京都市北区衣笠の平野神社のそばで生まれ育った私にとっては、

桜といえばすぐに頭に浮かぶ風景が平野さんの桜です。

 

平野さんの桜は、数多くある京都の桜の名所の中でも「東の円山公園」「西の平野神社」

といわれるほどの「桜」の名所で、終日大勢の見物客が訪れる人気のお花見スポットです。

ここには約400本の桜が咲き集い、その種類はなんと50種類とも
いわれる桜の宝庫なのが平野神社です。

そんな桜の宝庫が、登校班に間に合わない小学生だった私にとって、

平野神社境内を抜けるコースがとても大切な通学路でした。
もちろん学校が指定している正式なルートではないのですが、

学校と家とを結ぶ最短距離ルートであり、
遅刻を免れる為の時間短縮には最適のコースでした。

春の朝、爛漫の桜に覆われた境内の美しさは、遅刻しかけて
時間に追われている小学生の足すら止める輝きがありました。
薄い赤みをおびた可憐な花の集団は、朝の日光に照らされ
さらに輝きを増し、見上げた私の目には、お伽話で見聞きした
‘桃源郷’の世界が目前に広がる様な錯覚を見たのを
今でもはっきりおぼえています。


毎年、桜の花を見るたびに私は、あの頃感じた
春の暖かく雅やかなふるさと原風景を思い出します。

平野神社は平安京遷都の際に桓武天皇が、大和の国から移設されたと伝わる、

京都でも古い歴史を有する神社で、寛永年間に造営された本殿は

国の重要文化財にもなっています。

 

例年、3月中旬ごろに開花する桃桜から始まり、4月中旬ごろの遅咲きの里桜まで
長い期間で、桜見物が楽しめるのも京都では大変珍しいです。

また魁桜(サキガケ)や胡蝶桜、実を二つつける平野妹背桜や突葉根桜といった

珍しい種類の桜が咲き誇り、ピーク時には空が見えないほどの桜の花で覆われます。

 

平野の桜は寛和元年(985)に花山天皇が桜を植樹されたことから始まり、
平安時代には桜を愛でる宴が既に催されていたとの記録が残っています。
その後もいろんな種類の桜が植えられ、江戸時代には桜の名所として
多くの都人が花見に訪れる場所として知られていきます。


江戸の昔からお花見スポットであった伝統は今も健在です。
桜が開花している20日までは境内に升席を用意し、お花見宴会を提供する
お茶屋さんが一円に軒を連ねます。

焼き鳥を焼いたり、すき焼きなど土鍋ものをしたりと、

どの席も楽しい笑い声で満ち溢れ賑やかです。

また、子供達のお楽しみ屋台の夜店も多く出店されています。
昔ながらの縁日の風景と桜の優雅さとすんなりマッチするから不思議です。


4月10日には毎年「桜花祭」が行なわれ、神事後は、

騎馬や織姫等の衣装に扮した神幸行列が、

氏子の住んでいる町内を練り歩きます。

 

春の訪れを子ども心に感じた平野神社の桜。
桜ほど人の心を沸き立たす花はないですが、

私にとっては妙に幼い頃の追憶へと誘って
くれる花だと感じています。

この平野の境内には植えてある桜の本数ほどのたくさんの思い出がある京都衣笠。

暖かく雅やかな春を感じに帰郷したくなりました。