《旧京都織物会社跡》
私が以前在籍していた京都大学東南アジア地域研究所の裏にある
煉瓦造りのレトロな建物は、同研究所の図書館として使用されている
「旧京都織物会社跡」です。
明治20年に西陣織に代表される京都の伝統織物産業の近代化を進める目的で、
田中源太郎や渋沢栄一といった日本を代表する実業家の手で創設された京都織物会社。
突然の東京遷都によって顧客の大部分を失い、壊滅的な打撃を受けた京都の伝統産業西陣織。
その打開対策として打ち出された同社では、京都府の新工業奨励事業として
伝統的な西陣織技術を引継ぎ、ヨーロッパの最新技術を導入することで、
近代的な機械化と大量生産が図れる日本最大の近代織物工場を目指したのです。
海外から技術者を積極的に招聘し、また海外で染織を学んだ技術者を配置し、
先端技術を導入することで近代的な織物産業へと成長させる拠点となりました。
その後は、世界恐慌など不況の嵐に見舞われますが、堅実な経営と新素材製織の発展などで
同社は海外市場へ絹織のの輸出を推進し、事業を拡大を果たし強固な経営基盤を築きます。
しかし、戦後は業績不振のため昭和43(1968)年に解散し、その本社建物は
後に京都大学東南アジア研究所図書室となりました。
関西電力や京都銀行などの生みの親・田中源太郎氏ゆかりの遺構として、
また、明治期の京都近代化の象徴としてその姿を今も残しているのです。