角倉了以率いる朱印船「角倉船」が乗船する者に条件として遵守させた
「舟中規約」其ノ壱。
それは豪商と呼ばれた角倉家の支柱をなす「共生の精神」だ。
まずは原文から。
(原文)
(原文)凡そ回易の事は、有無を通して人・己を利するなり。
人を損てて己を益するには非ざるなり。利を共にすれば、小と雖も還りて大なり。
利を共にせざれば、大と雖も還りて小なり。謂う所の利は義の嘉会なり。
故に曰く、貪之を五とすれば、廉賀は之を三とすと、これを思え。
(訳)貿易の事業は一方にあって他方にないものを互いに融通し合うもので,、
相手にも自分にも利益をもたらすものである。相手に損失を与えることによって、
自分の利益を図るためのものではない。ともに利益を受けるならば、
その利は僅かであっても、得るところは大きい。利益をともにすることがなければ、
利は大きいようであっても、得るところ は小さいのだ。ここにいう利とは、
道義と一体のものである。だからいうではないか、
貪欲な商人か五つのものを求めるとき、清廉な商人は三つのもので満足すると。
よくよく考えよ。
という訳になる。現在の時代では当たり前ともいえる「均等な分配」という
貿易の考え方としてグローバルスタンダードなものだが、時は16世紀後期である。
西欧列強が大航海時代として世界の海に繰り出し、アジア諸国を植民地化していった時代だ。
そんな世界のうねりの中で、民間人の企業家でありながら、明確な経営倫理と経済思想を
掲げ、貿易事業を実践したことは、世界で初めての企業モラルであり、
当時の世界状況を考えるても、その先見性と人間性には驚嘆するばかりだ。