嚥下障害の治療は誰がするのがよいのか? (第3回:ST)

 

 1988年の事である。ST一人職場の病院。

tomo「嚥下障害の患者さんがいるので、STとしての訓練技術が良い方向に働き経口摂取ができる可能性があるので是非訓練して欲しい」

ST「誤嚥をさせたら大変な状況にある患者さんにそんな危険なことは私にはできません」

Dr「危険なことかどうかは私が判断し処方をする。私が責任を持つので是非やって欲い・・」

ST「STには医師の処方権はありません。私がしたくないことはしません・・」

Dr「そうですか・・・??」 

 

 私の最初の嚥下障害患者さんでの出来事であった。この記載をみてSTの皆さんはどのように感じられたでしょうか?またST以外の職種の方々は・・。STには医師の処方権がなかった時代があったのかー、STなのに医師に対して強いなー、今のSTにはとても考えられないなー、この先この患者さんはどうなっていくのだろうかーなどなど。

 

 1997年に言語聴覚士法が成立してから、STもPT(理学療法士)・OT(作業療法士)と同様に国家資格を持つようになり、同時に医師の指示のもとに業務を行うということが明文化された。特に嚥下障害患者に対して、医師あるいは歯科医師のもとでSTは嚥下訓練を行うことになった。ある意味では、従来の(法律成立前のSTの方々を敢えてこのように呼ばせてもらいます)STは、嫌でも医師の言う事を聞かなければならない状況になったことも事実である。従来のSTにとって嚥下障害患者の存在は新しい領域であり、初期はかなり戸惑ったのではないかと想像される。

 

 現在では、嚥下障害はST業務の専売特許のようになった印象が強い。誰でもSTならやらなければならないが、処方権を持つ医師・歯科医師は嚥下障害を扱うSTの力量がどの程度のものなのかを良く判断できなければならないと思っている。「嚥下障害あり。STよろしく」に代表される、いわゆる「おまかせリハビリ」ではいけないのではないかと思う。患者さんのリスクを予測し現在の評価と訓練を一緒に考えられることが医師・歯科医師には求められる。

 

 一方、STだけで十分か?と言われるとこれも大変こころもとないと私は感じてしまう。特に若いSTであれば、学校でどんな教育がされてきたかで大きく異なることがある。ST学校での教育は一様ではなく、嚥下障害に対する講義時間も様々であり教える方もSTの先生方がほとんどである。私の関わる大阪保健医療大学では、医師の私が90分7コマの授業を担当している。これだけ時間を割いてくれると医師からみて嚥下障害を扱う時の基礎的事項から応用事項や注意点に至るまでSTに話ができる。また、このようなSTになって欲しいなど嚥下障害には必要なチーム医療の考え方を教えることができる。大変よい状況と思っているが、こうした学校は本当に少ない。残念なことと思われる。

 

 話がそれてしまった。STが嚥下障害患者に対して内容的に利点の多いところは容易に想像がつく。発声発語器官の精査ができ高次脳機能評価もよくできる。脳神経系もよく評価できる。特に失語症を有する嚥下障害患者さんにとってはSTの存在は大きい。これらは嚥下障害患者さんにとっては大変なメリットである。しかし、

 

①頸部や体幹(時には四肢まで)・顔面などの筋緊張についてのリラクゼーション方法やどこをどのようにリラクゼーションしたら嚥下機能をよくできるのかを知ることは困難である。筋緊張についてよく知っているSTは少ない(実際教えられていないから仕方のないことなのだが)ポジショニングには是非必要な事項である。嚥下筋ばかりでなく、食事動作の摂食場面などはPT・OTの方がより専門であることには間違いはない。さらに、

 

②全身状態をみる医学的知識や技術はどうであろうか・・。こちらは残念ながらNSには劣る(これも基本的には十分教えられていないので仕方ないが)データをきちんと読めるようになることが必要であろう。直接訓練時に咽頭残留が多く、誤嚥の危険性が高くなったら吸引はできるのだろうか?介護職のみならずリハスタッフも各施設で研修をうければ、吸引行為をできるようにはなったが、現在でも吸引!吸引!と看護師さんを呼びにいくSTが多いのも事実である。何とも心もとない話であり、NSから見れば直接訓練するくらいなら吸引くらいはできてよーという声が聞こえてきそうである。そして最近、

 

③重要となってきた栄養的な見方・考え方については尚更である。低栄養でのサルコペニアの嚥下障害があっても、ただただ嚥下障害だから「嚥下の間接訓練、少しでも可能なら直接訓練」と嚥下機能だけをみているSTが多いというのが実感である。栄養を整えることは患者さんの土台であり、これをきちんと行っていけば、嚥下機能も次第に改善してくる嚥下障害も存在するのである。ここに気づかないと、いつまで経っても良くならないし、むしろ摂取量は少ないにも関わらず妙に経口のみでひっぱってしまうことがあり、低栄養は逆に進行。嚥下障害はさらに悪化してしまうことがある。補充栄養のタイミング(補充栄養ルートをどうするかなど)や栄養評価がしっかり行えていないと患者さんがよくなっていかない。もちろんこれらはSTのみではどうにもならないものではあるが、それこそカンファレンスにきちんと提出し理解を求め、チームで対応していく必要性があるように感じられる。

 

 STについていろいろ言ってきたが、私は長い嚥下障害の治療経験においてSTと一緒に働いた期間はたったの8年間(4年間づつ2施設)である。初期のSTのインパクトが強かったせいかSTなしで嚥下障害患者の治療をしていくにはどうしたらよいかをむしろ考えるようになって行った。先の第一症例がどのようになっていったのか、ST以外の職種とともに治療を行っていった経緯はまた別の機会に述べてみたいと思う。

 

今後の予定:

第4回は歯科医・歯科衛生士、栄養士さんについて

第5回はPT・OT、その他の職種で気付いた点について

第6回は私の嚥下障害第1例目の患者さんについて

を順次お話していきたい。今後ともどうかよろしくお願いいたします。

                                       2018/06/24 tomo 記