永らくお待たせ致しました
                      お車の準備が出来ました


  ロビーで配車を待っている間も
  広場での群集の動きが大変気に掛かり
  時折は広場へも目をやっておりました。

  相変わらず人の動きが激しく
  ドンドンとその数を増して行き
  間違いなく何か大きなデモにでも
  発展しそうな嫌な雰囲気が
  漂って来ました。

  私は一刻も早くホテルを出て
  飛行場へ向わないと
  車が群集にその行き先を阻まれて
  ホテルからの脱出すらも出来ないという
  最悪のケースも予測して  
  少しずつ気分が落ち着かなくなって
  来ておりました。

イメージ 1

                    この写真は本編とは全く関係ありませんが、
                    キャノピーの様子が良く分かる写真です。

    すると突然に

    大きな爆発音がして

    ロビー辺り一面に

    煙が充満し始めました。

  
  一瞬何が起きたのか見当もつかず
  少しうろたえましたが
  どうやら爆発音や煙は右側の
  出入口の方向からでした。

  私は長年の経験から、
  このような突発事故の際には
  先ず現場の状況を把握することで
  様子が分かるまではその場に
  ジッとしているのが最良の方法である事を
  既に学習してきておりましたので、
  私はソファーに腰掛けたまま
  周囲の観察を続けました。

  やがて煙が治まり、辺りの様子が
  少しずつ分かって来ました。
  爆発でキャノピーが落下して
  待機していたJALクルーバスの
  天井部分を押しつぶしておりました。

  客室乗務員の集合が遅れたのか
  はたまた犯人が仕掛けた爆弾の
  タイマー設定のミスなのかは
  判然とはしませんが、
  不幸中の幸だったのは
  JALクルーや客室乗務員の一人も
  未だ乗車していなかった事でした。

  どうやら犯人が事前にキャノピーの上に
  爆発物を仕掛け、JALクルーバスを
  意図的に狙った何か政治的な背景が
  ありそうな嫌な出来事でした。

イメージ 2

                    赤丸は JALクルーバスの位置
                    緑丸は 私が予約したトヨタクラウンの位置
                    青丸は マニラ国際空港の位置


  すると焦る気持ちで居た私の方へ
  ホテルのベルキャプテンが近寄り

    「永らくお待たせ致しました
     お車のご用意が出来ました
     これからフロアーマネージャーの
     お話が御座います」

  と言って、いつの間にか後ろで待機していた
  フロアーマネージャーと入れ替わりました。

    『お客様、誠に申し訳御座いませんが
     緊急事態が発生致しました。
     ご予約頂きましたお客様のお車に
     是非ご同乗願いたいお客様がおられますので
     ご了承頂けませんでしょうか』

  と言われました。
  そのフロアーマネージャによりますと、

    直ぐに出発出来る車は、私が予約したトヨタクラウンだけで、
    大破して走行不能となったクルーバスの代車は急遽手配中でしたが、
    暫くは時間が掛かりそうだした。
    JAL便は00時の離陸予定で、定刻に離陸するためには
    コックピットクルーの3名だけでも先に飛行場へ行って
    飛行前点検や出発の準備をする必要がありました。

  運転手を入れてもクラウンなら5人は乗車出来ましたので、
  私はすぐさま、

   「事情は良く分かりました
    直ぐに出発して下さい」

  とフロアーマネージャーを促すと
  JALクルーと一緒に飛行場へと急ぎました。


イメージ 3

                    この写真は本編とは無関係です

  日本に帰国してから夕刊を読むと
  そこにはたった数行のべた記事が出ており
  幸いにも、事故による死傷者は一人も出ませんでした。

  事故の一部始終を知る立場としては
  何故かホットした気分になりました。