むかーしの話になる。

僕が高校生の頃だろうか、古武術の道場を親が営んでいる友達がいて、何度か彼の家にお邪魔したことがある。

 

友達の祖父の代からやっている道場で、50年くらいになるだろうか。

 

50年も道場を経営していると、それこそ創立当初から通って師範になっている人やベテランが沢山いらっしゃる訳だが、その中でも一際目立つお婆さんがいた。

 

髪は全て白髪、入れ歯のせいかちょっとふがふがとしたしゃべり方だが

腰も曲がっていないし、とても静かに早く歩く

 

何より試斬の腕前が凄まじかった。

フワッとした優しい感じの刀の振り方なのに、普通の刀で軽々と7本横並びの畳表が斬れるし

 

挙げ句、木刀で垂直にかるーく固定しただけの竹を斬っていた。

 

そして面白いのが他の師範達も同じような事はできるのだが、やはり刀の勢いもあるしビュンビュンという感じの振り方で、お婆さん剣士とは大分違った振り方だった。

 

彼らはお婆さん剣士を「貴女のは邪剣だ!誰も真似できないじゃないか!」と笑っていた。

 

お婆さん剣士も負けておらず

「あら、刀は女性を扱うように優しく握って振らないとダメなのよ?

そんな風に力一杯女性を振り回すなんて悪い男ね~笑」

と笑っていたのだ。

 

では、お婆さん剣士は軽い刀を使っているのか?

軽いから柔らかく振れるのか?

 

と、思ったのでそのお婆さん剣士にお話を聞いて、刀も持たせて貰ったが

抜刀用としては普通の重さの刀だった!

 

(男子高校生なんかお婆さんから見ればとても可愛いのだろう、

冬場だったので手が冷えたでしょうと刀とトレードオフで手をめちゃくちゃに握られたが笑)

 

鞘を払って1000グラム程、二尺二寸~三寸くらいの現代刀だったと思う。

拵えは白の鮫皮に黒の柄巻きに黒の鞘。

 

他の師範達もそれくらいの重量の刀を扱っていたと思うが、こうも人によって違うものなのだなと思ったものだ。

 

あくまで予想だが、体幹がとんでもなく鍛えられておりその上で常に刃筋が完璧なのだろう。

 

そのお婆さん剣士はだいぶ前に亡くなってしまったし、何十年も居合や抜刀をやっているとあんな風になれるのか、それともあのお婆さん剣士が特例だったのかは分からない。

 

何より道場経営者の一人息子である友達は、日本刀も格闘もどうでも良いというくらい関心が無かったようで今では普通のサラリーマンになり結婚もしている。

 

何より、こんな役に立たないものを厳しく指導される意味が分からないもいつも怒っていた笑

 

親御さんの道場は血縁関係の無い師範に継がせる事になるだろう。

 

あのお婆さん剣士の事をふと思い出したから記事にしたが、まだまだ木刀で竹が斬れるようにはなっておらずどうしたらあんな風になれるのか未だに模索してる。