トミーの週記おもしろき 戻れない往還 | トミーのブログ

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昭和18年09月生まれのメガネ馬鹿爺が、思いつくままに写真と駄文を貼って参ります。下手・不器用・無粋・物好き・お人好し、だけど、真面目でめげない戦中派です。ブログ友のお仲間に入れて下さいな。

手元に「静岡縣濱名郡北濱村土地寶典」があります。
昭和九年に「大日本帝國市町村地圖刊行會」が発行したもので「非賣品」と記されています。

連休最後の日、黄緑の表紙を何気なく開きました。
途端にパニックを起こすほど大量な思い出が襲って来ました。
ペンで描いた線と筆書きの文字だけなのですが、地図上の神社(御先祖様と呼んでいました)に植わっていた百日紅の色がくっきり見えるのです。
西の林の、目が痛くなるほど眩い新緑が思い出され、動悸が激しくなりました。
せせらぎをゆっくり横切る青大将の縞、何と云う鮮やかさでしょう。
林を渡るドウドウと鳴る風の音も、愛犬チロの吠える声も聞こえます。
あぁ、ここは「オーシンツクツクの山」と勝手に名付けた林でした。
ほら、ジュッと鳴いて飛び去った透明の羽が見えたでしょ?  
毎日、この秋葉山の灯明の下に集って皆で登校したんだね。
ヒデちゃん、帰りにあのニッケン掘ろうぜ。
思い出したら口の中一杯にあの香りが広がりました。

糸瓜畑の花が咲いたから、バカ蝶を捕まえて蛙を釣ってザリガニを獲ろうよ。
「トミーくん、のりこちゃんが好きだらあ」とえいこちゃん。
そう言えば宿題まだだっけ。
凄い夕焼けだね。
明日も晴れ。
どこかで魚を焼いている匂いがする、おこうさの家かな?
ラジオから笛吹童子の唄が聞こえて来たから帰るよ‥‥
もう帰る時刻だから


帰りたい‥

あの往還を、長い影を踏みながら・・・

でもあの道はもう往還ではありません。
追憶の底の幻の道なのです。

来はしましたが戻れない往還

いけねぇ・・涙がキーボードに落ちた。
意識朦朧の中、現の世界に戻ってしまったら、そこにいたのは涙でグシャグシャになった白髪の古老、トミーだけ。

トミーはそっと
「静岡縣濱名郡北濱村土地寶典」を閉じました。

今日から夏。