
ああ、なんということでしょう、昨夕こぐたちは一本の電話を受けたのです。
それは思いもよらないことでした。
こぐたちの会社の船が、遥か太平洋のかなたを航行中、
どうも舵を脱落した模様、というものでした。
最初は、何が起きたのか、誰も理解し得なかったのです。
しかし、次の瞬間、いっせいに分かったのでした。
そうです。船にはタイヤがありません。
したがって舵がなければ、いくら主機(エンジン)が動いていても、
一生懸命スクリューが波を蹴立てても、
まったくの操縦不能に陥ってしまうのでした。
今日、船から第二信を受けたのです。
救命艇を降ろし船尾を確認させたが、舵板は亡失している、
本日、天気晴朗ナレ共浪高シ、と。
それは、かの有名な日本海海戦の秋に、
名参謀秋山真之が大本営に出陣を打電したという名文なのでした。
とまれ、本船は、例えていうのならば、
高速道路を走行中の大型トラックが、
ハンドルが効かなくなってしまった、という状態なのです。
直ちに機関停止を命じ(船にはブレーキがないので)、
操縦不能の信号を掲げさせています。
さて、どうするか?造船所に入れなきゃいけませんが、
どこに、どうやって曳航するのか?
誰も知る由もなかったのでした。
(今回は、横溝正史風に決めてみました)