【映画評】アメリカン・フィクション ウディ・アレン作品をも彷彿とさせる、皮肉に満ちた良作コメディ
アメリカン・フィクションでございます。第96回アカデミー賞に5部門ノミネート、最優秀脚色賞受賞しながらも、日本では劇場公開されず、アマプラで鑑賞可ということで観ました。
落ち着いた画面のトーン、ジャズ系の音楽、ペーソス漂う雰囲気が、かつてのウディ・アレン作品をも思わせる良作です。
作家であり、大学で教鞭を取るモンクであるが最近ヒットに恵まれない。新作は「黒人の作品らしくない」と難癖をつけられ評価もされない。高齢の母親の入院にまとまった金額が必要になったモンクは半ばヤケになり、ペンネームを変えて「刑務所から逃亡中の元犯罪者」と名乗り、底辺の黒人たちが主人公の小説を執筆。ところがこれが大ヒットして…
ホラもう、「売れない作家」「思わぬ大ヒット」「引っ込みがつかない」あたりの流れ、まんまアレン作品ぽいでしょ。
そういや、ダスティン・ホフマンの「トッツィー」ってのもあった。食い詰めた男優が女優に化けて、オーディション受けたら受かっちゃって、連ドラにでたら人気が出て困った…ってやつ。マイノリティーじゃない人がマイノリティーの役割を演じることで、マイノリティーに対する世間の固定したイメージを浮き彫りにしていくという流れ。タイトル忘れたが、白人の大学生が奨学金欲しさに黒人に化ける映画もあった。
ただこの映画は、そのあたりが話の中心というわけでもなく、家族関係の回復とか、中年の恋愛だとか、様々な話が語られる。頑固な中年オヤジが、自分の頑固さにも気づき、最後は少しほぐれていく。差別の問題を声高に訴えるのではなく、様々なエピソードいの一つとして、サラッとした感じで扱っていく。
コメディでもあり視聴後感(←読後感と同じ意味で映画観た後の感じという意味で書いたが、こんな言葉無いなあ)は軽め。ジワジワと染みて来て心に残っていくという映画で、たそがれ中年の土曜の夜にオススメの映画であります。
だからなのか、犯罪者のフリして小説書いて、その後始末をどうしたか、については極めて曖昧。あのラストは最初は、え、なんでここでコレ?と思ったが、あとからコレは観客に対する最大の皮肉なんだと気づきました。まあこういう終わらせ方もあるか、とも思うし…う~ん…