【読書記】『幽玄F』 中二病氏の迷惑千万な物語 | 模型づくりとか趣味の日々リターンズ

【読書記】『幽玄F』 中二病氏の迷惑千万な物語

『幽玄F』でございます。

 

直木賞受賞の大傑作『テスカトリポカ』をモノした佐藤究氏の最新作長編でございます。

 

『テスカトリポア』はすごかった。読むほどにアステカの神の呪術に自身が取り込まれているかのような錯覚を覚え、夜な夜な喰らいつくように読みふけった(あるいは自分が本に喰らわれているのでは)ことを思い出します。

 

まあそうは言っても、そう簡単に賞獲得レベルの傑作を乱発出来る訳も無く。

佐藤氏には次回作を期待したいです。

 

主人公の易永透は幼少のころより飛行機に憧れ、高校生で初めて戦闘機を見てからは戦闘機のパイロットを志し、心身と鍛え勉学に励み、航空機マニアの一人を除いては友人も作らず、遂に航空自衛隊でパイロットとなる。周囲には変わり者と呼ばれつつもその技量には秀でたものがあり重用されるも、訓練中の事故で戦闘機パイロットとしての道を断たれる。

 

その後は東南アジアで民間の遊覧飛行パイロットとなり糊口をしのぐ日々を送る。さしたる目標も無く過ごす日々が長く続くも、思いもよらぬ方向で再び戦闘機に乗れるチャンスを掴む。その実現のため彼は奔走し地元ゲリラとすら接触を持ち、ついに夢を実現する。

 

え~と…

帯に「三島由紀夫」に挑んだなどと書かれていますが、三島に詳しくない私は(学生のころに文庫を1冊か2冊読んだ気がするが、なんかぜんぜんピンとこなかった)この作品が三島してるのかどうか解りかねます。

作中には「護国」「天誅」「義」などの言葉がちりばめられ、この辺が三島っぽい感じもしますが、それが易永の行動を変えるものでもない。

易永の行動は徹頭徹尾、「戦闘機に乗りたい」という動機からのみ発生していて、そこにつながらない行為は生活のため以上の意味を持たない。

ついに戦闘機に乗れても、それでなにかをするわけでも無く(日本に戻ってクーデターでも起こすのかと思ったがさにあらず)、ただ撃墜されておしまい。

それを実現するプロセスで、何人の人を殺めるかもわからない兵器を売り渡すという行為をする。自身で「世界にたいする裏切り」と理解しているにも関わらず。

 

なんでそれが自身で納得できちゃうのか。それが出来る分別の無さは中二病こじらせ以外の何物でもないだろうよ。単に迷惑なだけなんだこの人。それがこの物語の狙いだというんなら、この本にはなんの感心も持てないっす。以上。