【映画評】花束みたいな恋をした ありふれた話で作ったありふれてない映画 | 模型づくりとか趣味の日々リターンズ

【映画評】花束みたいな恋をした ありふれた話で作ったありふれてない映画

共に大学生の麦と絹の二人の男女はサブカルの好みがピッタリだったことをきっかけに恋人同士に。やがて同棲に発展しそのまま卒業、フリーターのまま二人の生活を続けることになる。

最初は好みの小説や漫画や映画に囲まれ楽しい日々を過ごすが、麦が目指していたフリーのイラストレータの道が収入面で厳しく、やむを得ず就職する。

仕事中心の生活となる麦と絹には次第に心のすれ違いが生じ始める。

 

くっついて最後は離れる、恋愛ものとしてごく普通の展開に見え、むしろユニークなのは、映画らしいドラマチックな出来事とか意外な展開が「何もない」ってとこなんですね。

最初は楽しい楽しいでやっていけた二人が、現実社会の厳しさに直面して衝突しはじめるって、ごくありふれてるというか、結婚経験してる人が大なり小なりみんな経験してるんじゃないでしょうか。

それを真正面から描いてきて、これだけ説得力のある映画に仕上げたというのが何よりスゴイ。観てる間身につまされてつらかったもん。

 

傑作になった要因はいろいろあるでしょうけど、映画の中心的な要素であるサブカル等のディティールの正確さ緻密さ(ちゃんと時系列で、当時流行ったネタを並べている)、ストーリーそのものを際立たせる、あえてのオーソドックスなキャメラワーク、ダレの無い脚本などもさることながら、二人の主人公の演技が大変良い。有村架純の最後のファミレスシーンの延々泣きは、よくあれだけ長い時間、小泣きからはじまって大泣きに至るまで演じきったと感心しました。

 

ところでそのファミレスのシーン、麦の「もう好きじゃないから結婚しよう」的な物言いは…まあ映画だから、麦が精神的にまだ若くて成長してないってことの描写なのか、それ言われて「はいわかりました」って普通言わないだろ…別れ気分がつらいから現状維持に逃げたってことか…絹も一瞬ゆらいだけど、二人のドッペルゲンガーのごときカップルを見て、ああ昔はあんなふうに仲が良かったのに…と思い出し、あれが戻ってこないなら一緒にいる意味は無いと思ったんだろうね。

 

この破局をモラトリアムの崩壊と解釈する向きもあるようだが、そう考えると絹の涙は「クレヨンしんちゃん モーレツ!オトナ帝国の逆襲」のひろしの泣きと同じ、「あの懐かしい日々には戻れない、現実を背負って生きていく責任がある」と悟った悲しさとも捉えられる。

 

そうなのかどうなのか知りたいところだが、一年ほどでしっかり二人とも新しい相手を見つけた様子ではあるけど、どんな付き合い方をしているのか、相手は仕事していて生活が安定しているのか、それとも相変わらずサブカル楽しー!だけでやっているのか、映画の映像だけではわかりませんでした。残念。