【映画評】善き人のためのソナタ ドイツ統一以前の東独の薄気味悪さ 主人公キャラの印象強し! | 模型づくりとか趣味の日々リターンズ

【映画評】善き人のためのソナタ ドイツ統一以前の東独の薄気味悪さ 主人公キャラの印象強し!

アマプラで無料期間があとわずかと知ってあわてて観ました。

2007年のアカデミー外国語映画賞を獲得してます。

 

ベルリンの壁崩壊以前の東ドイツ。国家保安省に勤めるヴィースラー大尉は国家に忠実。今日も胡散臭い劇作家ドライマンに目をつけ、アパートにマイクを仕掛けて盗聴盗聴。

ただ胡散臭いと言っても、反体制思想を持つ作家や演劇仲間と交流があったからで、本人は体制に沿った内容の劇を上演している。怪しいというのは、ヴィースラーの直観みたいなもの。

で、こいつを監視すべきとなったのは、たまたま上司のハムプフ大臣がドライマンの恋人である女優クリスタに目をつけ舌なめずりをしてたからなんだな。なんかこういうやつ多いね!

 

で、ヴィースラーは盗聴をつづけていく内に、ドライマンとクリスタを支持し、ハムプフ大臣のやりたい放題に反抗心も沸いてくる。
 

ある時、自宅の盗聴を疑ったドライマンが、仲間と共謀して、あえてウソの会話をする。で、間の悪いことにヴィースラーは「うむむ、今回は聞かなかったことにしてやろう」としてしまう。で、ドライマンは盗聴は無いと判断、ここから話は悪い方向に進んでいく。

 

ドライマンが家宅捜索される事態になる。ヴィースラーは一計を案じ彼らを守ろうとするのだが…

 

細かいところはいろいろ気になって、たとえばヴィースラーが女優クリスタにファンを装って「あなたは素晴らしい女優だ」てなことを言うんだけど、ヴィースラーが女優たる彼女の姿を見たのは一度だけ、最初にドライマンに目を付けた時の舞台だけで、あんたクリスタの方なんか見てなかっただろ… またヴィースラーが徐々に心変わりしていく、そのきっかけもどこだったのかはっきりわからず、ちょっと弱い。タイトルにもなっているベートーベンの「善き人のためのソナタ」をドライマンが弾くのを聞いて涙をながしたりするのだが、ちと唐突な印象。

 

それでも当時の東ドイツの、共産圏にありがちな秘密警察、盗聴、協力者(密告者)の存在とその使い方、反体制的な思想を持つ人間の捜索と徹底的な取り調べ(ヴィースラーは尋問の専門家でもあり、この冒頭の尋問の場面が、いやなかなか。)など、じつに背筋の凍るような状況を、あくまで抑えたトーンでよく描いている。特にヴィースラーその人。表情が全然変わらない!この薄気味悪さ!心変わりしてもそのままなのが逆にリアル!この映画完全にこの人の芝居で持ってる。

 

ドライマンは助かったわけだが、周囲ではいろいろと死んだりなんだりしているわけだし、クソ大臣はのうのうと生きていて、家中にマイクがあることも分かって、気持ち的にはヴィースラーに感謝して終わるっていうような単純なもんじゃないような気もするが…まあ最後の新作芝居の上演シーンで、ちゃっかり新恋人がいたりするので、そんな程度なのかも知れんです。