【映画評】岬の兄弟 直視するのに勇気が要る障害と貧困の実相(15+)
岬の兄弟でございます。
アマプラでの無料視聴は間もなく終わりだそうなので、ご興味のある方はお急ぎで。
宇多丸印にハズレ無し、ということで、映画評論家宇多丸氏の選ぶ2019年ベストテンの一作。
とある漁港のある寒村。自閉症(と、おそらくは重度の知的障害のある)の妹と、二人暮らしの兄。兄も足に障害があるため仕事もままならず、勤め先をクビになる。内職はわずかな収入にしかならず、ついにはゴミをあさって飢えをしのぐ事態に。
そんな中、ある出来事をきっかけに、妹に売春させて稼ぎを得ることを思いつく…
映像はなかなかに強烈で、少々見るのがつらい。性的なシーンもそうだが、何しろ貧乏描写がすごい。食う物が無くてティッシュ食べたら甘かった、とかいうのは既にネタ化していて驚きもしないが、それよりも美術。家とか部屋とかが実に実に貧乏なんだ。もうセットじゃなくてロケなんじゃないかと思うぐらい。置いてあるものすべてが貧乏。リアリティがすごい。兄弟が寝ている寝具とか、そうそういかにもこういうのだよね、というのを選んでる。
兄妹のキレ気味の芝居が周辺のリアリティに支えられ、実に真に迫って見える。特に妹。本当に演技だよね?こういう役はよほど開き直ってやらないと出来ないと思うのだが、なにか限界突破してる。すごい。
兄が妹に売春させるなんてのは、当然ながら「異常」であり「犯罪」であり「鬼畜の所業」なのだが、映画を観ていると兄妹の行動を全面的に否定できない気分になってくる。
ゴミまで漁っていた兄妹が、売春で得た収入でハンバーガーを買い(久々のまともな食べ物)、家でむさぼるように喰らう。そして兄がこの時、ちょっとした行動を取るのだが、この行動が、なにか吹っ切れたような、鬱屈としていた感情から解放されたというか、ようやく胸を張れる、太陽に顔を向けられる気分になったということを、非常にうまく表現している。
空腹が、貧困が、どれだけ人を荒ませるか。そこから解放されることがどれだけうれしいか。
その後は、こういうことをしていて当然の帰結があり、その後始末があり。兄は職場復帰することができるのだが、その後どうするかはあえてぼかしたまま終わる。観る側はちょっと置いてきぼり食ったみたいな気分になるのだが、そこは狙い?
唯一不満があるのは、映画の中に行政との関わりが全く出てこないこと。妹はおそらく障害年金の対象になるだろうし、要介護認定受ければデイケアの利用とか使える支援が増えてくるはずなので。そこが何かうまく行かなかったということに触れてもらえればスッキリした。高校生とのエピソードは必須とは思えなかったので、こっちの方に変えてほしかった。
勢いで見せる映画なので粗削りではありますが、観た後グッタリするような、印象強い映画でした。