【書評】『老神介護』 劉慈欣の短編集は大風呂敷とペーソスと切なさが良い
当ブログではいつも映画評を書かせていただいてるのですが、これが「書評」というと何やら大仰で、エライ人が書くようで書きにくいです。しかしながら、齢を取ったので観た映画読んだ本を忘れてしまうことが多く、それを防ぐための忘備録として書かせていただいているという極めて個人的な理由によるものですので書かせていただきます(読んで下さる方はなんてお心が広いのでしょう)。
さてさて劉慈欣でございます。今中国SFが熱い!と言われている中で劉慈欣といえば中国SF界の神でございます。超有名な『三体』三部作はハードカバーで各1冊2冊2冊の計5冊、厚さにして14cmもある。今計った。なんの意味があるんだ。まあとにかく面白い。面白いとなれば他の本も読みたくなる。出版社も狙ってきて短編集はもとより、熱狂的なファンが書いたスピンオフ作品なんてのも出してくる。それも合わせると9冊で22.5cmもある(厚さはいいってば)。しかもまだ1冊買ってないのがある。どうすんだおい。
それはともかく『老神介護』です。短編集。表題作も含め5つの短編が含まれています。
●老神介護 表題作。やはり一番面白く、中国SFアンソロジー『折りたたみ北京』にも「神様の介護係」のタイトルで掲載。神様という存在をすごく長命で超科学を持つ知的生命体と解釈し、地球に生命をもたらしたものであり、かつ種としての寿命が近いものとして設定し、その老後の世話を地球人類に求める、という話。劉慈欣の魅力はそのデカすぎる風呂敷と、それをちゃんと畳んでくれることと思っているワタシとしては、これぞ劉慈欣の真骨頂。で、ちょっとペーソスもあり、最後は明るく力強く締めくくる。人類という種にも寿命があるとすれば、今どの辺まで来てるんだろう?とふと考えさせられました。
●扶養人類 劉慈欣らしからぬハードボイルドタッチで、何やら殺し屋なぞが現れて、話もつかみづらく少々読みにくいのだが、中盤で「そういう話か」と驚かされる。異星人に侵略される地球人が、貧富の差が元で自分の首を絞めることになり慌てる話。資本主義社会への皮肉か。
●白亜紀往時 氷河期と恐竜の破滅。すでに知的に発達していた恐竜は、同じく知的生命となっていた蟻と共存していたが、やがて対立し… 現代の巨大国家同士の対立と核抑止に対する痛烈な皮肉。
●彼女の目を連れて 地球のコアを探索する地中船が事故に遭い… 話はシンプルで、あらすじ書くとまんまネタバレになってしまう。この本で一番切ない話。
●地球大砲 これまた得意の風呂敷。超科学への信仰とその危うさと、それでも人類は先に進んでしまう。だってこれまでもそうだったじゃないか…という話。人類ってのは全くしょうがないね。
世界観につながりのあるのやら無いのやら様々な話が載っている。ファンならぜひ。そうでないのなら『三体』先がオススメ。