【映画評】西部戦線異状なし すべての面で及第点だが、衝撃は、無い(一か所除いて)
配信会社がアカデミー作品賞クラスの映画をバカスカと作るなんて、こんな時代がかつて想像出来たであろうか!?
Netflixの「西部戦線異状なし」でございます。2023年度アカデミー作品賞でございます。
戦争映画では、あまり「意外な展開」というものがありません。戦争で何が行われてきたか、戦争ってどういうものか、戦争の何が困るのか、たいていの人はイメージ持っています。
なので戦争映画では、同じ話でも噺家によって演じ方が変わり別物になるがごとく、ある意味ありふれた話をどう料理し、説得力を持たせていくか、が勝負になります。
「プラトーン」では、これまで米国の戦争映画が第二次大戦モノばかりだった=勝ち戦だったため、英雄譚やら美談みたいなものが多かったのが、初めてベトナム戦争=負け戦を描いたことで観客にショックを与えた
「プライベートライアン」は前線で実際に繰り広げられること、つまりは足が飛び内臓がはみ出すことを赤裸々に描き出した
「フル・メタル・ジャケット」では新兵の訓練で、如何にして人間性が抑圧され、戦闘マシーンが作られていくかを明らかにした
では「西部戦線異状なし」は?
兵隊を駒とか数としか見ていないために、自分の意地やらプライドで多くの兵を死に追いやってしまう上層部
前線で、敵兵に対する恐怖や憎悪と、自らの人間性との狭間で七転八倒する兵士
友達が目の前であっさりと死んでしまう不条理
圧倒的な敵の兵力と、それによる恐怖感
そしてこれらと対比される、嘘くさいほどに美しい自然の風景
どれも高レベルで達成していると言えるでしょう。
でも一生モノの映画かというと…どれも及第点ではあるがこれと言って印象的な場面はないというのが率直な感想です。
唯一、冒頭で大量の兵士の死体について、その始末を描写するシーンがあり…人が死のうがなんだろうが、戦争がシステマチックに運用されていることを象徴的に示すシーンがあり、そこは衝撃でありました。これがテーマならよかったのに…と。