先日のお休みに街をぶらぶらしていると、なんとも不思議な体験をしました。
いつも行く医学書専門店で30分ほど品定めと立ち読みをして、いよいよ会計へ向かうと、店員さんの声がマイクのように響くのです。
??
はじめは店員さんにマイクがついていて、音が反響しているのだと思いましたが、まったくそのような事はない。
レジに集音器か、拡張期でもついているのかと思いましたがそれもなさそう・・・。??
それで不思議に思いながら車へ戻り、エンジンをかけ発進すると、異変に気付きました。
なんじゃこりゃ。今日のブラームス交響曲めっちゃ下手くそ!!
音程も違うし、音割れしているし、どこの楽団??
いや、いつものCDか…。
どうゆうことだ??
曲を飛ばしてドビュッシーにしたら、もっとひどい。
これは、うーむ、驚いた。
ふと窓を開けると、歩行者信号の音もめっちゃ音痴。
パッポー、ではなく。
う゛ぁっっぽぉおー。みたいな音。
これはいよいよ異世界に飛び込んだなと思い、なんだか楽しくなってきました。
耳もぼーんとしています。
耳をほじっても詰まっているわけではなく、特に問題はないようだ。
片耳ずつ耳を塞いでみるも、音はしっかり聞こえている。
左右の問題ではないのか。
とりあえず家に帰るも、車を降りて聞こえる周りの人の声が、異様に響く。
玄関を開けて、奥さんのただいまがめっちゃ響く。
そうか、これが耳鳴りか。
と思い、しばらく考えましたが、
うん。きっと、時間がかかるやつだろうな。と。
内科でも耳鳴りはよく相談されますが、あまり良くなったという話を聞かない。
よい薬がない代表症状の一つです。
きっと、突難とかかな。
突発性難聴の患者さんはサブとしてよく担当していましたので。
サブというのは、
突発性難聴に対してステロイドを使うため、血糖が上がる。
それを防ぐ意味で我々内分泌内科が、
耳鼻科先生のサブについて血糖だけ診るというのは、どこの病院でもみかける風景です。
とりいそぎ、耳鼻科の先輩へ電話で相談して症状を伝えると、突発性難聴か、それよりも低音障害型感音難聴かなと。
まあ聞こえているなら軽症とは思うけど、イソバイド飲むか、聴力検査をして難聴があればステロイド使うか。
先生は医者だから入院まではいいと思うけど、軽ければ1-2週間でよくなると思う。
原因は先生も知ってのとおり、ストレスです。
とのお返事でした。
今から診るよ、という親切を一旦お断りし、まあしばらくこの生活を体験するものも悪くない。と思いました。
何事も経験。
良くなる見込みが強いのであれば、むしろ経験した方が耳鳴りの患者さんの気持ちもわかりやすくなるし、この異世界体験を楽しもうとすぐに決めました。
この世界でないと体験できないこともあるはず。
いろいろ実験してみよう。
妻も子供達もそんな父の発言にあきれていましたが、
ストレスが原因ということで、アピール次第では優しくしてもらえる可能性もアップしますし、
悪いことばかりではない 笑
それが証拠に、ほら、1時間程度で家族の声の「うぉんうぉん」もすでに慣れ始めている。
ウェルカム、耳鳴りさん。
しばらく一緒にダンスでも踊ろう。
…まあ、
いちおう調べると、耳の内リンパ浮腫的な記載もあるので、
気休めで五苓散を服用し、明日イソバイドを処方してもらおうかな、というくらいの軽い気持ちで。
じっとするよりは汗でも掻くかと、いつもどおり子供と公園へ向かい、野球とサッカーの練習。
耳鳴りがあっても、遊びの野球とサッカーは問題ない。
むしろストレス発散じゃー!
そういえば自然音はそれほど耳鳴りとして響いてこないし、人工音が響く印象だが、単に音量の問題だろうか。
自分の声も比較的大丈夫だけど、やはり大きくしゃべると響く。
これが骨伝導は大丈夫で、伝音性難聴、感音性難聴の違いか。などと勝手に納得しながら、医学部時代の復習に思いを巡らせる。
炎天下でがむしゃらに球を蹴り、投げ、汗だくで帰宅して、風呂に入り、ふとリビングに戻ると。
あれ?
耳鳴りがない。
あれ?
嘘だろ。
もう少し体験させてくれ。
実験したいこともあったのに。
待ってくれー。
何だったのでしょうか。
受け入れようとしすぎたり、
耳鳴りを逆手にとってサボろうとする魂胆がいけなかったのでしょうか。
耳鳴りに嫌われてしまったのでしょうか。
まあ、一度なった訳だし、またそのうちなるかな。と思いつつ。
たった数時間でしたが、やはり感覚器の不調は、不思議な体験だ。
間違いなく、続くと参ってしまいますが、やはり体験しないとわからない。
きっとその日の昼に食べた、中日ビルのカレー屋さん。
デリーで食べた劇辛カレーがストレスになっていたに違いありません。
久しぶりに頭が痛くなる辛さでしたので。
やはりいかなるストレスも神経によくなくて、その不調の出方は千差万別。
年を重ねるとこういった不調が増えていくのだろうなあ。
先が思いやられます。
富永 隆史