僕は大学在学時に先輩が立ち上げた合唱団、harmonia ensembleに何年間か所属し、そこで他では得難い貴重な経験をいくつもしました。

ヨーロッパの合唱コンクールに計2回参加出来ましたし、ハイレベルな合唱団が集まる合唱フェスティバルにも、計2回参加し、世界のトップに位置する合唱団の演奏を生で聴きまくるという贅沢な体験です。

また、そこで得た繋がりで、合唱団が来日する予定などを友達づてに聞いたりして、多くの人に対して公開されていないクローズドなイベントなども見に行くことが出来、色々な演奏を聴きました。
(King's singersのTenorのジュリアンのワークショップを歌譜喜で受けられたり、amarcordのワークショップを八咫烏で受けられたり、Ringmastersのクローズドライブを見に行ったら友達のおかげでその後メンバーと飲みに行けたり…恵まれすぎている…)

その結果、自分の中で「良い合唱とは」という事に対して、かなり意見が固まり、目指して行く方向性がハッキリと定まりました。
それが自分が時間をかけて追い求めて行く方向なので、理想のサウンドに対してプライドも持って取り組んでいます。


そして、大学を卒業してからの方が熱心に通っているかもしれないボイストレーニング。
そこで理想を実現するための方法論を学んでいます。


僕がやっている団体は少人数でのアンサンブルばかりなので、理想としている音は自ずと少人数でのアンサンブルが成立する音になります。
今のキングズシンガーズとか、シュトゥットガルト室内合唱団とか、ノルウェー・ソリスト合唱団とか、スヴァンホルム・シンガーズとか。
この間はドイツのamarcordのコンサートで素晴らしい演奏に感激し、先ほど書いたように八咫烏で直接ご指導を受ける機会にも恵まれました。
ああいう系統の軽い声が合唱音楽の求める声の一つの終着点だと思っています。

そして、日本のプロ団体で、そういう声で歌う団体を僕はまだ見たことがないので、そこを目指して活動しています。
(アマチュアだと結構いる?と思います。だから僕は合唱のレベルはアマチュアの方が高いと思う)
僕が海外の合唱コンクールや合唱フェスティバルで味わった感動を、日本のプロ団体が各地でお手軽な値段でお届けする、というところを目標にして。


これは僕の目標や理想の音の話ですが、何もそういう音を出す合唱団だけが、世界で評価されているわけじゃないですよね。


フィリピン・マドリガルシンガーズとか、タリス・スコラーズとか、ポリフォニーとか、結構ゴリゴリ歌うような団体も高い評価を受けていて、そういう音が好きな人だってたくさんいると思います。
(日本の声楽家のアンサンブル・合唱団も、どちらかといえばこういう方向性かな、と思います。)


で、そういう方向で高いレベルへと向かうための方法論を突き詰めようと研究している人がいる。

目指している方向が違うので、分かり合えない部分は必ずあると思うし、むしろ僕はわかり合う必要もないのかな、と思います。

合唱団の音をAからBに変えたい時の方法論の説明がきちんと納得のいくものならば、納得するし「これは説明にはなっていない」と思うものには納得しない、それだけです。

納得出来ないものに対する指摘はお互いしていければ、建設的な関係が築けるかもしれませんが、
そもそもある程度客観的に、自分でものを判断する能力がないと何事も高いレベルへと突き詰めていけないと思うし、
目指しているものの方向が全然違うので、納得したとしても絶対に受け入れられないものもあります。

そうやって別の立場の人のことを認識しつつ、特に否定せずに、両者の成長を楽しみに生きていけばそれでいいと思います。
そのようにして、派閥のような存在がいくつか出来るというのも、日本の合唱の音がそれぞれの方向に特化してレベルアップするということですし、将来どのような合唱団が出来てくるのか、とても楽しみです。

僕たちに出来る事は、
「このような音は○○だからあまり良い効果が得られない。
そのため、ここをこうすれば全体のサウンドやブレンドが良くなる」
みたいなことを色々なデータをもとにまとめて世に出していくことだけです。

僕は純正調とボイストレーニングの二つをかじり、長い時間をかけてしっかり勉強していきたいと思っているので、いつかわかりやすい形でまとめられたらいいな、と思っています。
「アンサンブルのためな必要なスキル」みたいな感じですかね。
今はまだまだ知識も実力も足りていない、人を納得させられるほどのものは持っていませんが、頑張ります。

プロの歌手として、専門家として情報を発信するということには、大きな責任が伴いますし、慎重にならざるを得ませんが、いつか僕や様々な人が取り組んでいる学びが身を結び、日本の合唱界がもっともっと豊かになれば、と思います。
僕も多様化して広がっていく一角の最先端に立てるように、頑張って勉強しつづけます。

気軽に情報を発信出来る分、色々な人がいますが、しっかりこだわりを持った人がどんどん増えていくと面白いですね。