おまたせしましたぁ~![]()
雄星はイライラしていた。
正確に言えば、そう映った。
報道陣が群がる。プロ1年目の春季キャンプでは、入寮時からそうであったように大物ルーキーの進む先には常に人山ができた。昨秋のドラフト会議では「メジャーか、国内か」と騒がれるなか、6球団の競合の末に1位指名を受けた。岩手を離れた最速154キロ左腕の動向は、年明け1月の合同練習から連日、新聞各紙でこぞって報じられた。
「常にカメラが回っている状態だったので、どんな表情を撮られるかわからない。高校時代は取材規制もあったので基本的には気にしませんでしたが、あれだけのカメラが毎日回っていると、何かポロッと言ったことが気になってしまったり、ムッとした表情をしたら写真を撮られたりするんじゃないかと思ったり、そういうことが初めての体験だったので最初は辛かったです」
春季キャンプ終盤には「今はいろんな方の協力をもらってピッチングフォームを教わり、すごい充実感があります」と語る一方で、こんな言葉も残している。
「一時期、マウンドに立つ時も余裕がないというか、投げるときに集中力が散漫になって、投げるのが面白くないと感じたときもありました」
18歳--。過去には16勝を挙げた松坂大輔(現レッドソックス)や11勝を挙げた田中将大(現楽天)のように高卒1年目から活躍した選手がいる。ゆえに「高卒1年目だから」と括って、若さを理由に結果が出ないことを肯定するのは、あまりに短絡的かもしれない。
だが、それでも思ってしまう。例外を除けば、やはり18歳なのだ、と。
「岩手の純粋な子」
かつて、雄星の根っこの部分をそう語ったのは花巻東高校の佐々木洋監督だ。才能や技術と並んで、雄星の価値を高めたのはその人間性にあることはこれまで何度も報じられてきた。
《指導のなかで教育だけが見えるのは嫌いですが、勝つことと人間を育てることの両輪を走らせたい。モットーの一つに、野球選手を育てるのではなく、野球もできる立派な人間を育てるというものがあります》
そう語る佐々木監督のもとで雄星の幹は太くなってきた。
今年の春、春季県大会を目の前にしていた花巻東高校に一通の手紙が届いた。それは、後輩たちに向けた雄星からの手紙だった。
花巻東高校の流石裕之部長が振り返る。
「手紙に書かれていた言葉がいいんですよ。春が夏の通過点だと思って戦ったら夏は勝てない。だから、一戦一戦大切に戦ってほしい、と。自分自身が大変な時期にもかかわらず、そうやって手紙を送ってくれるところが凄いというか、うれしいですよね」
「花巻東の一人のファン、OBとして書いただけですよ。やっぱり自分は花巻東で成長させてもらったという気持ちが一番強いですし、母校には頑張ってほしいという気持ちがありますから」
逆に夏の甲子園を目指す予選前は、遠くから母校を静観することにした。そこには、雄星を含めた昨年の甲子園を席巻した花巻東高校のメンバーらの親心に近い思いがあった。
「夏もみんなで何かやろうかと同級生で考えたんですよ。でもそこはやっぱり、3年生にとっては最後の大会ですし、後輩たちには『自分たちの大会なんだ』ということを意識して試合に挑んでほしいと思って手紙や贈り物は送りませんでした。監督さんを信じていけば結果も出るはずだから、夏は僕らが何かする必要はないという結論になりました」
結果的に今夏の花巻東高校は県大会4回戦で涙を呑んだが、後輩たちは先輩の思いを感じながら、最後の一球まで諦めない姿を見せた。
また、自身19回目の誕生日である6月17日には両親にプレゼントを贈った。普段はほとんど連絡を取らない両親への感謝の意を込めて。
「バックなどを贈りました。普段はまったく野球の話はしませんし、自分からも野球の話をしませんが、やっぱり両親、家族が一番心配していると思いますから」
純粋ゆえに、すべてを受け入れる。相手が期待するものには、どんな形であれ応えたい。これまでの言動を見ていると、その性格、思いがよく伝わる。
雄星が語る「不器用」とは、裏を返せば人間的な魅力とも言える。
だが、勝負の世界において、そんな「不器用」な性格を否定する者がいないわけではない。「考え過ぎ」。そんな言葉をつけ加えて「1年目なんだから形振り構わず投げればいい」と厳しく論ずる者もいる。
それでも雄星は力を込めて言う。
「高校の時って、甘えた覚えはないですけど、甘えられたんですよね。周りには監督がいて、チームメートがいて。落ち込んだ時もチームメートにパッと話しかけたり。監督に怒られた時は、チームで助け合ったりとか。それは自分だけではなく、みんなに共通したことだったかもしれませんが、周りに乗せられてやってこれた部分はあったと思います。ただ、プロになって今は個人事業主だと思っていますから、自分自身でセルフコントロールをしなければいけない。初めのうちは難しかったですけど、今はしっかりとできるようになりました。周囲の声がまったく気にならなくなりましたし、そこは大きな成長だと思います。もちろんプロですから結果を出さなければいけない。結果が出なければいろいろと言われる。だから、もちろん毎日、毎年が勝負だと思っています。でも、今この一年でどうこう言うことでもないと思っているので、目先のことは考えずにやっていきたい」
津波の引き潮のように、スーッと引いていった報道陣の数にも「まったく寂しさはない」。逆に「落ち着いて練習ができている」と言い切る。

シーズン開幕は、目と鼻の先にある西武ドームで一軍が開幕戦を行うなか、西武第二球場で迎えた。意識しなくとも、湧き上がる歓声は聞こえてきた。
「もちろん悔しさはありました。その後も一軍の試合結果をニュースで見ると『必ずここで投げる』という気持ちになりますし。でも、だからと言って焦っても無駄。のんびりするのはどうかと思いますけど、焦る必要はない。あくまでも最終的な目標に向かって進んでいきたいと思っています」
雄星の目に映るもの。それは、10年、20年先も一軍のマウンドで活躍する自分の姿だけだ。
残りあと1回![]()
お楽しみに~


