久々に電子出版ネタを。

●『全貌ウィキリークス』発売
先日、早川書房から『全貌ウィキリークス』が刊行されました。

全貌ウィキリークス/マルセル・ローゼンバッハ


本書は、政府や企業、宗教などに関する機密情報を匿名で公開するWebサイト「WikiLeaks(ウィキリークス)」の創始者Julian Paul Assange(ジュリアン・アサンジ)にフォーカスを当て、その裏側に迫ったドキュメントの日本語版です。
内容的に興味があるのでさっそく購入しようと思ったところ、なんと電子版も同時発売というニュースを目にしました。

『全貌ウィキリークス』電子書籍版同時発売!!
http://www.hayakawa-online.co.jp/news/detail_news.php?news_id=00000407

電子出版に取り組んでみる身としては、ぜひとも電子版で買おうと、今、僕の手元にあるSHARPのGALAPAGOSで買っちゃおうと、販売サイトにいってみたところ、購入ができませんでした。

「うーん、残念!」と思いいろいろ調べていたところ、現在の電子出版ビジネスの1つの課題があることに気付きました。そこで、今回は、その課題について書いてみます。

●同じ仕様の端末でも読める本の数が異なる場合がある
2010年後半から、iPhoneや各種Android端末などのスマートフォン、あるいはSHARP GALAPAGOSやSONY Readerといった電子ブックリーダーなど、ここ日本でも「電子コンテンツ」を読むための端末(デバイス)が多数登場してきました。
このように、ユーザ(読者)の選択肢が増える状況は大変ウェルカムではある一方で、コンテンツ提供側にとってもいろいろと障壁があるのも否めません。結果、読者にも不利益が生じることがあります。

たとえば、上述の『全貌ウィキリークス』。販売元は早川書房で、2011年2月14日現在、電子版に関しては、

  • 理想書店」(PC/iPhone/iPad対応)
  • Sonyリーダーストア」(SONY"Reader"対応)
  • LISMO Book Store」(biblio Leaf SP02対応)
  • honto」(PC/iPhone/iPad/Androidスマートフォン/Androidタブレット対応)
の提供が行われており、AppleのAppstoreは配信予定となっています。

このように、日本で使えるほとんどのデバイスを網羅して、どのデバイスからも購入できるようになっていると思えますが、実は大きな落とし穴(と僕は思っています)があります。
それが、

「たとえ同じ内容(かつ同じフォーマット)のコンテンツがあっても、販売サイトが異なると購入できない」

ということ。これが今の電子出版ビジネスの課題の1つなんです。

今回例に挙げている『全貌ウィキリークス』に関しては、hontoより、XMDFという電子書籍フォーマットでコンテンツが用意されており、本来ならば、そのXMDFを開発したSHARPの端末「SHARP GALAPAGOS メディアタブレット」でも当然購入して読めるはず!と、思ってしまうはず。
ところが、このSHARP純正のメディアタブレットからアクセスできる販売サイトというのは、(現時点では)TSUTAYA GALAPAGOSしか用意されていなく、ここでは、そのXMDF版の『全貌ウィキリークス』を取り扱っていないために購入できない、という状況が生まれているわけです。

一方の、NTTドコモから提供されているメディアタブレットと(リーダー機能に関して)同等のスペックを持つSH-07Cの場合、2Dfactohontoの2つが用意されており、今回の『全貌ウィキリークス』に関しては、hontoからの提供が行われているため購入できるようになっています。

●販売サイトごとに品揃えが異なることは良いのか?悪いのか?
さて、上記の内容は、読者目線で「同じ端末なのに、読める本と読めない本があるの」と書いているわけですが、目線を変えて、販売サイトあるいはコンテンツ配信側から見た場合、違う理論が成立します。

たとえば、販売サイト側の視点で見た場合。そもそもとして、販売サイトごとに品揃えが異なるということは、自由競争を行う経済社会であれば当たり前のことです。品揃えが異なるのは、各々の販売サイトの方針や努力に依存する、市場の原理とも言えます。つまり、今回の場合、販売できるhontoが、他のサイトよりも品揃えを増やす努力をした結果という捉え方もできるわけです。
さらに、電子出版に関しては再販制度に当てはまらないので、なおさらです:-)
(電子出版以外の別の、たとえば量販店で売っている商品に置き換えるとわかりやすいかもしれませんね)

もう1つの、コンテンツホルダーである早川書房から見た場合、(仮定として)「TSUTAYA GALAPAGOSで売るよりも、hontoで売る方がたくさん売れる」と判断すれば、今の展開の仕方は間違いではないということになります。
このように、それぞれの立場、見方によって、今の状況の捉えられ方は異なります。
(※他の要因として、モバイルブック.jpやビットウェイなど、電子出版取次による展開方法が影響していることもあるかと思います。この辺は、電子出版ビジネスの基礎をテーマに、改めてエントリを書きますね)

●電子出版“ブーム”を電子出版“ビジネス”に
以下、私見です。

2011年は、おそらくこうした状況がまだまだ生まれてくると思っています。

現在は、SHARPのメディアタブレットとNTTドコモのSH-07Cが同様のスペック(回線網は異なる)にもかかわらず、販売サイトと品揃えが異なるということ自体に注目が集まっていないため、それほど問題にならないかもしれません。
(そもそもとして、まだまだ日本国内における専用デバイスを経由した電子コンテンツの読書スタイルが確立されていないこともあります)

しかし、電子出版に関してたくさんの情報が提供され続け、読者の知識が増えていけば、「同じコンテンツで同じ端末なら、同じように読みたいよー」と思う気持ちが生まれてくるのは必然であり、それが人のさがというもの。

そして、今回の僕のように「お、読める!」という気持ちを持っていたうえで「えー、僕/私のリーダーでは読めないの」という「もやもや感」「残念な気持ち」が生まれてしまうと、その“残念さ”が心に残ってしまうものです。

僕は、2010年は電子出版“ブーム”元年だったのに対し、2011年が電子出版“ビジネス”元年と考えています。つまり、今はまだ電子出版ビジネス立ち上がりの黎明期でもあり、先の見えない混沌とした時期でもあるわけです。
(過去にも何度か電子出版ブームはあったんですが(苦笑))

そう考えれば(甘えかもしれませんが)、今、生まれているさまざまなシチュエーションというのは、すべてが成長のための大きな糧になるわけで、それを活かしていけば、正しい方向に進むことができると思っています。
ですので、電子出版“ビジネス”元年である今年は、たとえば今回取り上げた読者の「もやもや感」「残念な気持ち」をできる限り減らす努力をし、もしそういう感覚を生んでしまったとしても、目を逸らさずにきちんと取り組み、課題を1つ1つ解決することが大切だと思っています。

今回の例で言えば、このあと,もしSHARP GALAPGOSでも『全貌ウィキリークス』が読めるようになれば、読者としては大変嬉しいわけですから。いわば、雨降って地固まる、ですね(違うかな:-p)。
これはあくまで僕の想像と前置きしておきますが、もしかしたら早川書房さんではすでに取り組まれているかもしれませんね(と言うか、ぜひ取り組んでいただけると嬉しいなw)。

僕自身、電子出版ビジネスに関わる人間の一人として、近い将来に、読者の期待に応えていくコンテンツづくり、コンテンツ配信、その先にある電子出版ビジネス市場の形成を目指したいと考えています。