テッパンの話をするよ?
※↑自分でハードルをあげるな
いや、そんなもんを持ち合わせてはいないのだが、
なぜだろう、
黒い人は身内の話をするとたいていテッパン説が上がっている
そんなにお笑い気質なご一族をお持ちなんだろうか?
生まれた瞬間からいっしょにいるから麻痺してんだな
確かに変わった人たちだなー
と思うことは、この俺でもあるけども
日常はいたって平凡なのだ
黒い人だっていたって平凡、平たい顔の一族の一人だ
さて今回は、すでに他界してしまったグランマのこと
彼女のことを、俺はバヌシと呼んでいた
え? 金持ちなの?
違うよ、どっちかってーと平凡ビンボー関の山ンボー
「馬」と書いて、馬主
ではなく
「歯」と書いて、歯主(ばぬし)
もしくは、歯の王と書いて、「ハオウ」
何でさ
みんな持ってるだろ、歯は!?
そう、みんな持ってる
でもマイグランマは、逆に一本も自前の歯が生えていなかった
若い頃どんな無茶なシンナーを吸ったのかは知らんが
※↑名誉毀損とはこのこと!
前歯から奥歯まで一本もなかった
歯がないことで生活上の不便はない様だった
なによりも強靭に鍛えぬかれた歯茎で、
それなりの硬さのものは何でも噛み切っていた
煎餅とか普通に食ってたし
それはそれで、人間の進化を感じえずにはいられない
だがね、世間的にはやっぱり歯が見えないのは恥ずかしいらしく
「総入れ歯にしてみる」
というトチ狂ったようなトライを何度か繰り返していた
歯茎が発達しているということは、
それに合う総入れ歯を造らなければならない
できた入れ歯を口に入れ、何度か使用するが
硬いものをも噛み砕くほどの歯茎に作った入れ歯が当たり、
痛くてしょうがない
痛くて痛くて痛くて痛くて
日常使用が億劫に鳴り、使わなくなる
しばらくすると、
やはり歯を入れてみるけども…ということを繰り返して
「もしかしたら、この入れ歯自体があってないんじゃないか?」
と、努力しないことを他人のせいにするのが大の得意だったグランマ
※↑絶対名誉毀損だし
気がつけば、ちょっとだけ形の違う入れ歯やら、素材が違うものがわんさか
だから呼ぶよ
彼女をバヌシと
そんな素敵なグランマも他界してしまいました
葬式当日、式場の人が言ってくれた
「お別れの際に、大事にしていたものを」
という言葉
棺おけに詰め込まれて、出棺されてくばあさんに
せめて天国で、贅沢にいろいろ食ってくれ
※↑死んだ理由は食いすぎとも思えるのだが、気にしない
想いをこめて、せっかく造った入れ歯を入れてあげようということになる
一族満場一致で決定し、
じゃ、俺とってくるよ
黒い人と、そのブラザーでグランマの部屋に取りに行くことに
大事なものは、この扉の奥
それを知っていた俺
迷わず、扉を開ける
なんじゃこりゃーーー!
ってか、どれじゃーーー!?
なんだかんだで入れ歯を多種多様につくってたグランマ
その部屋の大事なもの入れには
ポリデント的な水溶液に沈められ、
透明なタッパーに入れられた入れ歯群が並んでる
…6個
おおいおおいおおいおおい
あのさー、なんでわざわざ透明なケースに入れたんだ?
扉を開けた瞬間に、相手を笑わせようとしてたよね
そういう画策だったよね?
じゃなかったら、今にもけたたましく笑いそうな六個の入れ歯を
よく見える位置にならべておかないだろう?
どれが一番いいのか分からなくなった俺はブラザーを呼ぶ
なんじゃこりゃーー!!?
同じリアクションをする、ブラザー
それはもう、リアクションを競う出川と竜平である
この二人のまったく意味のない協議の結果
とりあえず、六個をトレイにのせて全部持っていくことにする
ほらね、意味ない
車の運転中、助手席に置いた水溶液の中の入れ歯たちは、
振動するたびにかちかちふよふよですよ
あざ笑うかのように楽しそうにけたけたけたけた
くそう、俺の運転下手ですか?
さすが、グランマ、歯主だけあるぜ
あの世に行っても操ってやがる…
式場に戻った俺たち
トレイに乗っかった六個を、
ハイ、おまちどう!
とばかりに待ちわびる一族の元へ
ぶは!!
笑うわなー
全員、瞬間で吹き出すわなー
だって、だってさ!
全部持ってきた理由は確かにみんなで選んでほしかったというのもあるが、
トレイに乗っけてお持ちした時点で、
笑いのドツボにはめることの方に思考が向いてしまったのも事実
しばらく涙を流して笑った後、
「じゃあこれにする?」
中でもなんとなくよく使用していたひとつを入れることに決定
じゃあ、他の五つは?
「どうせ誰も使わないよね」
だろうね、人が一回口に入れたものを他人のお口に入れるのは
身内でもちょっと…
っていうか、合わないだろ?
合わないよね?
「合わないよ」
兄嫁、即答
※↑歯科技工の方さんです
「いっそのこと、全部入れちゃう」
六つは多いわ!
持って帰るか
「式、始まっちゃうよ。そんな時間ない」
とりあえず、遺族の控室においておこうということとなる
ここで忘れてはいけないこと
遺族控室というのは、
式の終わりには大宴会の場所となるか、
もしくは酔っ払いの休憩場所となる
程よく酔っ払った我が一族のだれかしらが、それを見つければ
それはもうおもちゃでしかないわけだ
とりあえず一個持ち上げて振ってみる
ふるふるふよふよかたかたかた
トレイごと振ってみる
♪は・ろ・い・と・へ・ほ・に・は クインテット~♪
五つが歌う
ぶべら!!
笑いとともに、何かを放出して爆笑死
幸せな顔をして眠っておられたオジサン
そして、別の人も飲み疲れて部屋に入り、爆死!
いや、彼は強かった
「お前らのしわざか!」
怒られたー
大人なのに、すっげー怒られたー
たいていの悪事やいたずらは、
100%の確立で俺かマイブラザーの企みだとみんな思っているけども
俺たちだってすでにいいおっさんですよ
そんなことするわけ…
やりました
楽しんでやりました
やったって、こいつ!
かくして、
再び主なき家に戻ってくることとなった五つの戦士は
黒い兄弟の悪巧みと、グランパとの合意の下、
納骨のその日まで、仏壇に飾られることになった
骨壷を取り囲み、守護するかのようなクインテット
すばらしい勇姿は、弔問者にはまったく伝わらなかった
っていうか、みんなひきまくってたなー
そんな祖母との思い出
いまごろ天国で、むちゃくちゃ硬いモノでも食ってるだろうか
ばあさん…命日にはなんかポリデント的なモノを
送っておきます