いい忘れていましたが


この旅物語は


人との旅にどぎまぎしている黒い人と

黒い人を翻弄して楽しんでいるであろうシェフと

存在感をまったく見せないそのシェフの配偶者の

三人でお送りしております



っていうかさ、

ツレがいるなら、事前に言ってほしかったよ


「だって、言ったら来てくれなかったでしょ? 二人旅、楽しみなよとか言って」


うーん、言ってたねー

間違いなく、そう言って同行はしなかったねー


なぜこの人はそんなに付き合いが長くないのに

俺の心を読むんだろう

分かりやすいのか、俺よ!



でもさ、

だったら誘わなくてもよかったじゃないか、俺を


「ああ、こっち、飲めないんで」

あう、致命的

ワインの試飲の旅で飲めないのはかなりのダメージ

は、は、初めましてー


「お噂はかねがね…」


どんな?

ね、なに?

噂ってあんた、何言ったのよ!


「さ、行きましょうか」

あくまで笑顔な悪魔な笑顔のシェフ

もう逆らえないのね、あなたに…



ほぼプライベート初となる仲間に、

更なる初対面を一人増やし、列車はひた走る


ドラクエ並みのパーティー構成だ


どちらかというと、

勇者タイプではなく、魔導師タイプの黒い人


列の一番後ろについて行く



季節は冬


ワイナリーでは

次のぶどうが実る前の剪定を行っている頃だ


途中、ブドウ棚から煙が立ち上っているのが、車窓から見えてくる

落とした枝を燃やしてるんだね


秋とは違った、別の風情がある

なにより、ピンと張った空気がおいしい!
※↑着いた



剪定を行っているのは職人さん

工場を仕切っているのも、

瓶詰めするのもまた職人さん



職人さんというのは、

興味のある人に対する話がとても熱心



言い換えれば、長い


しかし熱心に聞いてくれるとか

わざわざ足を運んできてくれるとか

そういう人に対して熱く語らないわけないじゃないか


そして、その熱さに黒い人が共感しないわけがないじゃないか!


「ありがとうございました、とても参考になりました!」


深々と頭を下げてその場を離れたのは、

二時間以上たってからのこと



もちろんガンガンにその醸造もとのワインを試飲させてもらったのは言うまでもないし

言うまでもないくらいテンションも上がっている


もはや何人旅だろうと関係ない

なりは魔導師だが、基本は遊び人


ご隠居、せっかくの旅なんですから、何か食べていきましょうよ



遊び人ではなく、やたらうっかりなヤツの口癖を言ってみる


「あー、次行くワイナリーはレストランがあったんだけど…」


時刻は14時を過ぎたところ

ワイナリーでの話が長すぎ…げふふん!

話に華が咲いた為、ラストオーダーの時間を過ぎていた


「どうしたらいいの、ドラえも~ん」


大丈夫、のび太君

こんなこともあろうかと!



四次元にはつながっていないカバンから

黒い人が取り出したのは

ピーシー



説明しよう!

黒い人はいついかなる時でも仕事ができるように

必ずノートパソコンを持ち歩いているのだ!



ポチッとな。


早速検索

お気楽極楽



そして見つけるラストオーダーまでがあと15分あるお店


よっしゃ、

へい、タクシー!

前の車を追ってくれ


「いません」


車なんてめったに通りません


じゃあ、すみませんけど、このお店に…
※↑急に下手に出る



「わかったよ、あんちゃん。跳ばすぜ、しっかりつかまってな!」


話のわかるタクシーのおっさんは

けっこうな運転の荒さを武器にして

なんとか無事故でお店前に



あ!

看板下げてる!


時間はジャスト

あんまりしたくないけど、飛び込み懇願!


もうダメですか?

お願いします!


「いいですよ、どうぞ」

素敵な笑顔はシェフに負けない

ワイシャツにブラウンのエプロンの

パパさん風ホールの方

片付けしてたところをみると、オーナーさん?


飛び込みにもかかわらず、やな顔もしないで

超いい人ー


っていうか、飛び入りで入ってみたけど

けっこう本格的フレンチなお店


なーのーに、すごいよ

ランチ値段

リーズナブル~


スープとか地の野菜使ってるし

ワインも地産地消


飲みたかったけども、試飲がなかったヴィンテージも!


わーい、いいお店だ

シェフも満足してくれてるし!

偶然だけど、いいお店に当たるんだよねー、俺
※↑アルコールでテンション上がり中



「いかがでした?」


オーナーがお皿を下げて、コーヒーを出してくれた


あ、エスプレッソのダブル


あれ?

俺、コーヒー頼みましたよね?



「すみません、メニューにはコーヒーと紅茶しか書いてないんですけど」

うん、確かにそうでした


「でも、エスプレッソでしたよね、いつも。○○さん←本名」


ええええええー?

何で知ってんの!?


つか、俺の趣味まで何で知ってんのさ!


貴様、誰だ!?


「ご無沙汰してましたー。偶然来ていただいたみたいで…」


オーナーを見る

見る

見る



ああああああ!!!


顔見知りでした

数年前まで都内にいた方

イベントでいっしょにお仕事を何回かして…


だってあの頃は

超黒スーツでオールバックで!

そうだ

確かお店を出すからと田舎に戻るって

職場を数年前に辞めて…

ここぉ!?




すみませんすみませんすみませんすみませんすみません(以下略)


平謝りも平謝り

まったく気付きませんでした


神様、僕の記憶を返してよ


もしくは願い事をするよ

一時間前に戻してください



未知の旅での偶然の再会に死ぬほどビビった俺


酔いも覚めたわ



「…相変わらず、謎多いですよねー」


シェフ…こんなに取り乱した俺をみて

楽しんでましたね?



こんなサプライズ、いらないよ!