打ち合わせあとに、ふと気付いた




そういえば、ここは友達のやっていたお店が近い




『改装しました』


みたいなハガキが前に来ていたな




しかもスキャナーで取り込んで、同じ内容のものをメールでもくれていたな






それほどまでに俺が家に帰らないからポストを見ないことを心配してくれたのだったら



はじめからメールだけ送ればいいのに!



と思った記憶が残っている




打ち合わせもはやめに終わったし



せっかくだからお祝いの挨拶くらいして行こうか






時刻は17時を過ぎたところ


オープンの時間ではあるが



まだ早いし、お客さんもそんなに入ってないだろう



っていうか、あいつの店だから



そうそう入らないだろう、お客なんか

※ひどい





さっそくワインの一本もお土産に持って



お店に向かう





予想通りのガラガラの店内だが
※ごめん…





前に来たときとはがらりと印象が変わってた



これは女性に受けそうな内装である



ちはー


「あー、何お前! 急!」


いや、近くまで来たもんだから



まるでドラマのような台詞を吐いて、椅子にかけた


「何飲む?」


ごめん、仕事中でちょっと寄っただけ


「じゃ、ビールなー」


ねえ、話し聞いてた?


とりあえずビールが出てきたので


シェフと一緒に乾杯することにした


まあ、1杯くらいなら顔にも出ないし、いいかー
※謙虚に見えて、鬼畜発言


暇?


「ズバッと聞くねー。でも改装してから、女性のお客さん増えたんだ」


ちょっと飲みながら、久しぶりの会話を楽しむ


「味見程度に、なんかつまんでってよ。批評も聞きたい」


オードブル感覚で数品タパスが出された


味はとてもよい




料理の腕はあるのだが、性格がくそ真面目



料理への探究心が強いために、人付き合いがよろしくない彼だが


キッチンに立っているときだけは明るくなる




料理以外の知識が乏しいのが難点だ






しばらく話しているうちに、ちらほらとお客さんが入ってくる



月曜日にして


常連さんがちょいちょい見えるということは、軌道に乗っているのだろう


改装したのもあたりだったんだな




元気そうだし、安心したー




出されたつまみも終わったので



さて、席を立とうとしたところで事件が起きる







カウンターの横に座ってた女性から声をかけられる





「赤ワイン、飲めます?」





彼を人付き合い苦手批評した黒い人だが、



実はこいつ以上に人見知り





「一緒してくれませんか? シェフも」





自分の脇においてあったボトルを少し上げて、女性は言った





「あ、すみません」





シェフがさっとグラスを二個出して、彼女の前においた





お前、俺が仕事中だって知ってるよな?



っていうか、お前も仕事中だろ?



店、開けたばっかだろ?



何してんのさ





すみません、仕事ちゅ…





すでにビールのグラスが空いているので説得力がない発言





断ろうとした俺だったが、さえぎるキッチンの声があった





「女性の申し出は断れないだろー」





前言撤回!



こいつ性格変わってます!



いつの間にこんなスキルを身に着けたんだ!





「仕事で四日くらい沖縄に出張だったの。ずーっと親父に付き合って泡盛やん?」





気さくな女性は関西出身の方で、なかなかずばずばと物言う人でした





「どこいっても泡盛とゴーヤーチャンプルー! 全部同じ味やん?」





違うと思います…





そんな出張明けで、いち早くワインが飲みたくてここに来たとのこと





だったら、一人でボトル開けてくださいよ





「帰ったら洗濯もせな。そんなふわっふわなれんやん? 一人で飲んでもおいしくないしー」


まあ、そうですね…




うなずきながら、次を注いでもらう






いい常連さんもついたみたいだなー




結果、赤2杯をご馳走になって、先に店を出ることにする





すみません、おいしかったですー





「こっちも付き合ってもらってごめんなー」





何かお礼をと思うのですが、あいにく名刺切らしてて…





嘘である



プライベートで仕事の名刺を配りたくないための口実だ





「そしたらさ、ボジョレーきなよ」





は?



シェフの一声





ボジョレー解禁日には、お店でボジョレー入荷フェアをするという





「そん時、お返ししたらいいじゃん」






おまえ、そんな日に予定を勝手に決めたら




女性に失礼だろう!






「わー、おごってもらえるん?」






ノるんかい!!






「これ、私の名刺な。いつでも声かけてー」




「じゃ、またボジョレーで」






二人の笑顔と見送りで




俺はお店を出た






黒い人のボジョレーの予定が勝手に決まった!




しかもどういう流れでこうなったのか、なぜか女性の連絡先をゲットした!






これってもしかして、なにか…始まる??






いやいやいや、そのまえにボジョレーにそんなことしてる暇ないんだけども…






ただいま、連絡すべきかどうかを名刺を目の前に迷っております